上の水中生態写真の記録はすべて以下のとおり。
・撮影日時：2021年1月12日
・撮影場所：大瀬崎（静岡県沼津市）
・撮影者：榊原 由香さん
・発見者：熊谷翔太さん
ほぼ１年前にSNS上で見つけたカサゴ系の浮遊期稚魚。フサカサゴ科にしては違和感があり、ずっとモヤモヤしていたのだが、最近、突然閃いた。
ヒメキチジ科ヒメキチジ属 Plectrogenium は最近の世界的レビュー（松沼ら、2021；Matsunuma et al., 2021）により整理・新種記載され、日本産として主に下記２種が分布するとされている。
・ヒメキチジ P. rubricauda Uesaka, Yamakawa, Matsunuma and Endo in Matsunuma et al., 2021
・ヨロイヒメキチジ P. kamoharai Uesaka, Yamakawa, Matsunuma and Endo in Matsunuma et al., 2021
上記２種は胸鰭条数等で識別でき、今回撮影された浮遊期稚魚は、胸鰭条数が20であることからヒメキチジ（19～21：最頻値20）と思われる（ヨロイヒメキチジでは21–24：最頻値22）。
これまでに着底個体の記録がある分布域は
・ヒメキチジ：静岡県、三重県、高知県、宮崎県
・ヨロイヒメキチジ：静岡県、愛知県、和歌山県、三重県、高知県、東シナ海
日本産稚魚図鑑第二版（2014）ではヒメキチジ科の記載はされていない。世界的にみて浮遊生活期のヒメキチジ科ヒメキチジ属稚魚の形態的知見は初めてのものであると思われる。
なお、カサゴ亜目（中坊編, 2013）での位置づけは以下の通り。
191 メバル科 Sebastidae
192 キチジ科 Sebastolobidae
193 フサカサゴ科 Scorpaenidae
194 ハチ科 Apistidae
195 ハオコゼ科 Tetrarogidae
196 オニオコゼ科 Synanceiidae
197 イボオコゼ科 Aploactinidae
198 ヒレナガカサゴ科 Neosebastidae
199 ヒメキチジ科 Plectrogenidae
200 ウバゴチ科 Parabembridae
201 アカゴチ科 Bembridae
202 ホウボウ科 Triglidae
203 キホウボウ科 Peristediidae
204 ハリゴチ科 Hoplichthyidae
205 コチ科 Platycephalidae
なお、房総半島以南の水深300～800ｍから知られる同科バラハイゴチ属バラハイゴチ Bembradium roseum とは、鰭条数（背鰭 VIII～IX、臀鰭 10～11、胸鰭 24～27）で明瞭に識別できる。
●松沼瑞樹・上阪健太・山川 武・遠藤広光（2021）日本産ヒメキチジ属魚類の標準和名. Ichthy, Nat. Hist. Fish. Jpn., 14: 35–38.
〔Mizuki Matsunuma, Kenta Uesaka, Takeshi Yamakawa and Hiromitsu Endo. 2021. Standard Japanese names of three species of Plectrogenium recently described from Japan. Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 14: 35–38.〕
https://www.museum.kagoshima-u.ac.jp/ichthy/INHFJ_2021_014_035.pdf
●Mizuki Matsunuma, Kenta Uesaka, Takeshi Yamakawa and Hiromitsu Endo (2021) Review of the Indo-Pacifc scorpaenoid genus Plectrogenium Gilbert 1905 (Plectrogeniidae) with descriptions of eight new species. Ichthyological Research
https://doi.org/10.1007/s10228-021-00844-z
Published: 17 November 2021
●高知大学 PRESS RELEASE 令和３年11月24日
インド洋・太平洋に分布する深海性ヒメキチジ属魚類 ８新種を命名
～小型の深海底生性魚類に関する種多様性の一端を明らかにしました～
http://www.kochi-u.ac.jp/w3museum/Fish_Labo/20211124_himekichiji.pdf
●深海魚ヒメキチジ８新種確認、高知大・遠藤教授ら論文 「土佐のお魚博士」蒲原博士にちなみ命名も
（高知新聞 2021.12.01）
https://www.kochinews.co.jp/article/detail/525578
最後に、当ブログでの紹介を快諾してくださった榊原由香さんに感謝します。