ロシアによるウクライナ侵略の長期化に加え、3月以降米地方銀行の破綻が相次ぐなど、世界経済は景気の減速や金融部門の動揺といった多くの難問に直面している。こうした中、5月11~13日に新潟市で主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議が開催される。議長国を務める日本はどのような成果を目指しているのか。物価高対策や防衛力強化、少子化対策などで膨れあがる財政の運営や中小・零細企業の資金繰りにどのように対応していくつもりなのか。キーマンである鈴木俊一財務・金融担当相に聞いた。

鈴木俊一[すずきしゅんいち]
鈴木俊一[すずきしゅんいち]
1953年生まれ。77年早稲田大学教育学部卒、全国漁業協同組合連合会へ。父である鈴木善幸衆院議員秘書を経て90年衆院選岩手1区(当時)で初当選し、現在10期目。環境相、五輪担当相、自民党総務会長などを歴任し、21年10月から義理の兄である麻生太郎自民党副総裁の後を継いで財務・金融担当相に就いた。(写真:都築雅人、以下同)

新潟市での主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、(1)喫緊の課題への対応(2)世界経済の強靱(きょうじん)化(3)多様な価値を踏まえた経済政策が優先課題として掲げられています。それぞれについて、議論する予定の主な内容と目指す成果は。

鈴木俊一財務・金融担当相(以下、鈴木氏):G7は世界経済が直面する様々な課題に率先して対処していく必要があります。日本は取り組むべき優先課題として、ご指摘の3つの柱を掲げております。

 まず「喫緊の課題への対応」については、ウクライナ支援やロシアへの圧力、世界経済や金融市場の動向、途上国の債務問題等について議論する予定です。

 ウクライナ支援とロシアへの圧力に関しては、昨年のG7議長国だったドイツが中心議題に設定しました。(日本議長下においても)引き継いで優先度が高いテーマとしてしっかり取り組むつもりです。世界経済や日本経済が厳しい状況に置かれているのはなぜかと言えば、ロシアによるウクライナ侵略が元凶です。必要に応じて制裁措置の強化を検討するとともに、ウクライナ支援、またその先のウクライナ復興についてもG7として考えていかなければならないと思っています。

 より中長期的な課題として、「世界経済の強靭化」にも取り組みます。具体的には、気候変動、経済安全保障、金融デジタル化、国際保健、国際課税などの分野について議論を行います。特に国際保健や国際課税はこれまで日本が中心になって議論を進めてきた分野だけに、しっかり取り組みたいと思います。

 また、「多様な価値を踏まえた経済政策」については、経済社会の大変容に伴い、無料のデジタルサービスや富の平等や持続可能性といった様々な「価値」に配慮する必要性が高まる中、より良い経済政策の実現に向け、各国と率直な議論を交わしたいと考えています。

 ロシアによるウクライナ侵略をはじめとして、世界経済は多くの課題に直面しています。自由・民主主義、法の支配、人権の尊重といった基本的価値観を共有する国々の集まりであるG7が結束して課題に対処することは極めて重要であり、G7議長国として議論を主導してまいります。

途上国債務問題に関連し、4月中旬のワシントンでの20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に合わせ、日本などの主導でスリランカ債権国会議を立ち上げました。主な狙いと、対スリランカで最大の債権国である中国にどのような役割を期待し、どんな対応を働きかけるのでしょうか。

鈴木氏:先般開催されたIMF(国際通貨基金)・世界銀行春季会合の機会に、インド、フランスと共にスリランカとIMFの同席も得て、スリランカの債権国会合発足の合意を発表しました。スリランカが危機から脱却するには、パリクラブ(主要債権国会議)及び非パリクラブの多くの債権国が集まり、透明かつ公平に債務再編を協議することが必要です。スリランカのような中所得国には、G20の「共通枠組み」のような既存の債務再編の枠組みが存在しないため、このような広範な債権国の協調を立ち上げることが重要です。

 この問題で一番重要なのは、債務再編に当たっては債権国が同等、平等に扱われることです。そのためには、どの国がどれぐらいの債権を持っているのかを明らかにしてもらなければならないのですが、率直に言って、これまで中国は消極的でした。私たちは全ての債権国に会合への参加を呼びかけており、中国もこれに参加し、建設的に協議に臨むことを期待します。日本は、引き続き主要債権国と緊密に連携し、スリランカの債務問題への対応を主導していきます。

金融市場の不確実性を注視

多様な価値を踏まえた経済政策については、例えば国内総生産(GDP)に表れにくい格差縮小に向けた政策などが念頭にあるようですね。

鈴木氏:現在、世界は経済・社会の大変容に直面しています。デジタル化以外にも、気候変動とそれに伴う自然災害の激甚化・頻発化や、格差の拡大を受けて、環境の持続可能性や所得・富の平等の重要性がますます認識されるようになってきています。日本においても、「新しい資本主義」に向けた取組として、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)、格差問題をはじめ、経済成長との両立を目指しつつ、様々な価値を守るための政策課題に取り組んでいるところです。

 G7財務相会合における具体的な議論の内容は未定ですが、例えば、GDPに表れないような経済の成長モデルがあってしかるべきだと思います。今申し上げたような問題意識も踏まえ、多様な価値を反映したより良い経済政策をテーマに、率直な意見交換を行いたいと考えています。

新型コロナウイルス禍で膨らんだマネーが急収縮し、金融市場の動揺を招いています。米連邦準備理事会(FRB)による利上げと量的引き締めは米シリコンバレーバンク(SVB)破綻やクレディ・スイス・グループの経営危機などの遠因になったとの見方も出ています。5月1日には米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)も経営破綻しました。米国などでは金融不安の長期化や貸し渋りによる景気後退が懸念されています。こうした金融市場や実体経済の現状への認識と、日本への影響をどう見ていますか。また、今後の政府はどのような対応方針なのでしょうか。

鈴木氏:まず、今般の一連の銀行破綻や経営危機について、FRBの金融政策が遠因と指摘されましたが、金融庁としては、必ずしもそうした見方をしておりません。それぞれの銀行の課題は別個にあるとみています。

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