【雇用者側】当事者が教える、職場で発達障害の方(又は疑われる方)に対して接する上で大切な3つの考え方

就業イメージ

発達障害者は単に仕事ができないのではなく、脳機能の偏り(特性)により仕事上困難が増し、仕事をする上であらゆるトラブルが起きやすくなる為である

 

①「発達障害者は仕事ができない」という認識は誤り貴方の周りの人の)認識を変えていく必要がある

結論から言いましょう。身体に障害をお持ちの方に「あの人はなぜ物を持てないのか?なぜ普通に歩けないのか?」と当人又は周りの人に貴方は言いますか?
発達障害を持っている人(または疑われる人)に「あの人はなんで空気が読めないのか?「あの人はなぜ何度いっても同じミスをするのか?」と言うことと同じ事がいえます。それは障害による困り事が第三者に目で見えるか否かの違いにすぎません。(これが発達障害が「見えざる障害」と言われる所以です)

またよく職場で発達障害者をあらわす言葉として「コミュ障(コミュニケーション障害)」「困った人」「アスペ」など様々な用語で語られます。しかしそもそもそのような人は本当に発達障害者なのでしょうか?発達障害でなくてもそのような特性を持った方はいますし、あくまでも発達障害者の傾向の一部を切り取って、それをあたかも発達障害者全体と捉え、レッテルを貼ろうとする定型発達者(健常者=マジョリティ)層のヘイト的な考えではないのでしょうか?


これは「発達障害をお持ちの方が単に仕事ができない(手に負えない困った人)」という話ではなく、「発達障害特性を知らない(理解できていない)定型発達者の認識不足からくる差別意識」にすぎません。

ただこの障害の難しいところは定型発達者でもミスはしますし、空気が読めない事もあったり、場にそぐわない発言をすることがあったりします。またどこまでが定型発達者でどこまでが発達障害者であるという線引きが専門医でも難しいことは付け加えておきましょう。
私たち発達障害者は定型発達者からの上記のような一方的な批判に戸惑い、傷つけられやすいこともまた分かってほしいのです。
私たち発達障害を持つ者は自分の意識とは違うベクトル、すなわち脳の機能障害から仕事上、コミュニケーションを含めたあらゆる困難が増し、問題が起きてしまうのです。それは当人たちに言葉で注意して改善できるという簡単な問題ではありません。そこを周りの人たちは理解する必要があります。

ではそのような特性を持った方が職場にいる場合はどうすればよいのでしょう

それは相手(当事者)に変わってもらおうと思うのではなく、貴方の認識を変えてください。

まず発達障害とはどういうものかという正しい知識をつけてください。そして相手に変わってもらおうとするのではなく、貴方自身の認識を変えてください。障害者と思うのではなく、〇〇の傾向が強い人、こだわりが強い人、自己否定されるのが怖い人、記憶や注意力が維持しづらい人など傾向のある人と捉えてください。
そして貴方が基本的に当事者に合わせながら、アドバイスしていくというやり方をとってください。
※当然、当事者たちに直してもらいたいことは伝えなければなりませんが、表現方法としては指導ではなくアドバイスの方が近いです。TeachingではなくCoachingの方がイメージとしては近いです。 

前述したように発達障害をお持ちの当事者にただ単に注意や指導をしただけでは問題の根本解決になりません。むしろ誤った注意の仕方で問題が更に大きくなってしまったり、それが引き金となって当人たちが二次障害を起こしてしまいかねません。その為、をなぜミスが事が起きたのか?なぜトラブルが生じたのか?を当人たちと一緒になって考え、それが「発達障害」が起因していると思われるのであれば当人たちにも自己認識をしてもらい、医学的な療法を用いたり、当人に自身の障害の特性を理解させたり、問題が顕著化する前に対策をしたり、問題が顕著化しても大丈夫な社内環境調整を行ったりするなどの対策が必要になります。(あくまでも当人たちが発達障害であると認識している場合に限る)
すなわち社内環境の調整が非常に重要となります。


発達障害者の職場の困りごとは「自身の障害特性に合った職に就けていない事」に次いで「発達障害者の特性に合わせた環境調整が出来ていない事」が殆どです。
(詳しくは下記を参照下さい)

【雇用者側】当事者が教える、発達障害者を雇用する企業が気を付ける5つのポイント

 

②発達障害の傾向は見られるが、自己認識がない発達障害者(診断されていない方)には社内的にどのように対応していけば良いか

 

自身が発達障害と公表していたり、発達障害者だと分かる方であれば対応はし易いですが、もし職場で発達障害かどうかわからない方、または公表していないがそのような気質がある方にはどのように対応すればよいでしょうか?
まずやってはならないのが当人たちに発達障害を持っているのではないか?と直接言ってしまうこと。これは一歩間違えると人権の侵害になりかねません。その為、当人への直接喚起は避けなければなりません。
対処方法としてはまず一つ目は「発達障害を持っている」という前提の元、上司や指導する立場の人たちが上記の様に、当人に自身の特性(傾向)を理解させたり(障害の疑いはかけない)、問題が顕著化する前に対策をしたり、問題が顕著化しても大丈夫な社内環境調整を行ったりする対応すればよいでしょう。(この場合、まだ発達障害と判明していない為、医学療法は勧められない)

そして二つ目は社内で「発達障害診断」を奨励する事です。
その奨励内容とは「現在、発達障害をお持ちの成人が増えている(認知されてきている)事、それが起因とした困りごとの具体的な症例を上げ、またそれにより当人たちは仕事上苦しんでいる事、SDGsやニューロダイバーシティの観点から社内ではそういった人達を取り残さない取り組みをしている事、発達障害と思われる症状にお困りの方からの社内相談窓口を用意している事、なお相談内容は外部に漏れる事はなく相談者のプライバシーは守られている」といった内容を社内で告知する事です。
そうする事によりまだ診断されていない人たちやグレーゾーンの人たち本人から直接窓口へ相談が来る可能性が高まります。そして相談者当人たちに発達障害が診断できる産業医や病院診断をすすめるという方法をとるのです。そうすれば当人たちの人権を侵害せず、社内でスムーズな対応ができるようになります。
※当事者たちへの診断の告知方法や奨励方法など。詳しい内容は下記書籍などを参考にしていただければ幸いです。

発達障害のある方と働くための教科書  日本法令社

 

周囲の人の気づかいで当事者(発達障害者)の仕事上の困難や生きづらさが大きく改善する

発達障害を持つ方の症状の現れ方は千差万別、人それぞれです。その為、その人に合った対応の工夫が必要となってきます。それでは具体的に周囲の人がどのような認識で発達障害を持つ方と接してゆけばいいのでしょうか。まずはマネジメントを行う上で意識して頂きたい点5つを述べます。

発達障害者をマネジメントする際の5つのポイント

・やるべき仕事・理由・手順・役割分担を明確にする
・気づかない所で悩んでいる事があるので、当事者とのコミュニケーションを大切にする
・ルールや決まり事を大切にする傾向があるので、変更がある時は前もって伝えておく
・良い評価をすれば、本人は自己肯定感が上がり、結果良い仕事につながる
・注意や指示は遠慮なくおこなう。但しその際には威圧的や高圧的にならず落ち着いて、具体的に行う

 

それでは当事者たちと接する際に注意する点を下記に例を挙げます。

 

発達障害をお持ちの方の一般的な対応例

・コミュニケーションは「ゆっくり」「短く」「正確に」に伝える事を心がける。
・失敗したら「叱らずに」「問題の解決方法」を一緒に考える

・常に当人達とコミュニケーション(対話)を図り、当人達の考えを把握しておくこと
・当事者は自発的に相談しにくい性質があるので、適宜、指導者が声かけをしてあげる
・上手くできたら必ず褒める
・「まだ?」「早くして」など急かさないで、ゆっくり穏やかな態度で接する
・指導時には感情的にならず、穏やかに指導する
・言葉だけでなく「図」や「絵」などを用いわかりやすく教える
・注意散漫な注意欠如・多動症(ADHD)の人にはポスターや張り紙など注意を引くものを目に入る位置に貼らない
 また座席に仕切りを付けて外部の様子が目に入らないようにする(海外ではパーテーションデスクは当たり前)
・前もってスケジュールや計画を明確に伝えておく。もし変更になる場合は早めに当人に知らせて対応策を明示する
・忘れやすい人には携帯アプリのスケジュール機能を活用させ、前もってスケジュール漏れがないようにする
・遅刻しがちな人には集合時間より10~15分前の時間を告知する
・当人たちの「苦手な事」「得意な事」を教えてもらう。または「苦手な事」「得意な事」に気づいてあげるようにする

・細かい決まり事や、してはならない事は撤廃し、最低限やるべき事を決めあとは自由にやらせる(発達障害を持つ者はこだわりが強いので、細かい縛りはマイナスとなる。その為、当人の性質を活かし、最低限やるべき事を決めたらあとは当人達に自由にやらせる)
・ティーチング(指導者)ではなく、コーチングに徹する事(並走者となる)
などなど

以上の様に、発達障害とは「脳機能の偏り(脳機能障害)」から様々な困りごとやトラブルが生じやすくなってしまいます。何度も言いますが当人たちの意識の問題だけで改善するものではありません。

まとめると

①相手(発達障害者)に変わってもらおうと思うのではなく、貴方(接する方)の認識を変えること

②発達障害の傾向は見られるが、自己認識がない発達障害者(診断されていない方)には発達障害者と同じように接する事。そして「障害の診断について」告知、奨励した上で、当人たちが相談しやすい窓口を用意すること

③当事者達の業務上の困難を軽減するためにも、周りの人の気づかいが必要であること

一番大切な事は一緒に仕事をする上司や職場の人たちが「大人の発達障害」について正しい知識を持ち、その障害を理解し、周りの人による当事者達に対しての気づかいと配慮ができる職場環境になる事です。

発達障害者がもつ障害特性が困り事となり障害となってしまうのは、その障害特性を理解できない周りの人や、その特性に合わない環境に身を置くことが最大の要因である。

もしそういった対応を行ってもうまくいかない場合は外的リソースを有効活用しましょう。詳細はこちら。
これは突き詰めれば「発達障害者」だけでなく、職場のあらゆる従業員への対応にも共通して言える事です。
発達障害者が働き易い職場は定型発達者達にとっても同じく働き易い職場なのです。 

 

 

職場配慮イメージ

 

PS:なぜ現在の日本の職場では発達障害者がこんなにも生きづらいのでしょうか?そして周りで働く定型発達者が発達障害者についての対応で苦慮するのでしょうか?

その大きな要因のひとつとして日本の多くの企業で昔から「メンバーシップ型雇用」を採用しているからでしょう。海外特に欧米ではジョブ型雇用が一般的となっております。すなわち自分の得意分野を伸ばしそれを仕事に活かせているからです。得意分野があれば多少、仕事上で社会性の困難があっても「●●さんしかできない仕事だから」「●●さんがいないと仕事が回らないから」「●●さんの仕事をあなたが代行できますか?」といった現象が起きます。さらにそれがAI化の時代となっても、AIが代用できないような特殊な仕事においては更にその希少性が顕著となります。 

日本は逆に昔からメンバーシップ型の雇用をとっており、会社は給与以上分の働きを労働者に求める傾向にあります。それは本業に関係のない雑務であったり、無駄な会議であったり、業務以外のコミュニケーションであったり、社会性であったり・・・賃金以上の様々な事を求めます。そのような職場では「空気を読むことができない」や「業務以外のスキル=社会性」の低い、発達障害を持った人は周りから潰され活躍できなくなります。社会=日本企業の雇用制度自体が発達障害者を排除するシステムとなっているからです。

また追い打ちをかけるように日本企業の多くは入社前の採用試験でSPI試験などを導入し、できる限り社会性の低い「発達障害者」を排除しようとしています。そして「社会性が高く」「空気の読める」社員を求めます。そういったSDGsおよびニューロダイバシティ構想からも大きく外れる旧来的観点、閉鎖的、差別的なことをしている企業が未だ日本にはごまんと存在します。
経営者側のそのような差別意識が日本企業の成長性の低さ、ひいては日本経済の成長を阻害し続けてきた要因のひ一つともとれるのです。


私が読んだ本に書いてあった一文です。

「アメリカのコンサルティング会社アクセンチュアと米国障害者協会が行った調査では、ダイバーシティの取り組みに秀でた企業はその他の企業と比較して、4年間の平均売上が28%高く、純利益は2倍という結果がでています。
多様性の向上に取り組むことで醸成される企業文化が、従業員にとって価値基準のバックボーンになった結果、売り上げや利益によい効果をもたらしていると考えられます。」

リワーク専門の心療内科の先生に「働きながら発達障害と付き合う方法」を聞いてみました
ボーボットメディカルクリニック院長神経科医 亀廣聡  作家 夏川立也    日本実業出版



発達障害者が生きやすくなる社会になる為には人々の意識向上だけでどうにもならず、日本社会の雇用制度改革や経営側や採用者側の差別意識や偏見を今すぐにでも無くしていく必要があるのです。

Pocket
LINEで送る

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です