作家・多和田葉子さん 「おしゃべり」が民主主義社会を支えている

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インタビューに答える作家の多和田葉子さん=東京都文京区で2022年11月9日、内藤絵美撮影
インタビューに答える作家の多和田葉子さん=東京都文京区で2022年11月9日、内藤絵美撮影

 登場人物たちがよくおしゃべりする小説である。議論とも、日常会話とも違う対話が、出自も考え方も異なる人々を結び付け、それぞれの足元を照らす。多和田葉子さんの新作長編「太陽諸島」(講談社)には、そんな「言葉」を巡る光景が描かれている。人々が孤立し、分断が進む現代社会で言葉が果たす役割とは。刊行に合わせて、ドイツから約2年半ぶりに来日した多和田さんに聞いた。【関雄輔】

コロナ禍で失われた「中間の会話」

 本作は、今年の全米図書賞翻訳文学部門の最終候補にもなった「地球にちりばめられて」から始まる3部作の完結編。留学中に日本とおぼしき母国の島国が消え、同郷人を探す旅をヨーロッパ各地で続けてきたHirukoと仲間たちの物語は、本作でバルト海に舞台を移す。船の上で、寄港地で、Hirukoたちは言語や歴史についてのとりとめのない会話を続ける。

 多和田さんは「中間の会話」が社会には必要だと言う。「『今日ご飯どうする?』とか『この仕事誰がやるの』とか、そういう実用的な会話がありますよね。それに対し、討論会や授業、インタビューなど、改まって考えを述べる会話もある。でも、その中間のおしゃべりこそが民主主義の社会を支えている気がするんです」

 ドイツで暮らして今年で40年。「人々が集まって歴史や政治について考えを述べながら、そのこと自体を楽しむ。そうした場が日本には少ない」と指摘する。「ドイツでは…

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