屋上で植物を育てながら発電!? 研究が進む「屋上営農型太陽光発電」の実用度

太陽光発電をしながら、ソーラーパネルの下で植物を育てる営農型太陽光発電。日本では「ソーラーシェアリング」とも呼ばれるこの手法を、建物の屋上で応用しようという研究が進められている。その一石二鳥以上の効果とは?
屋上で植物を育てながら発電 研究が進む「屋上営農型太陽光発電」の実用度
ACNAKELSY/GETTY IMAGES

長らくネコや風見鶏に占領され、ときには「ヴァイオリン弾き」の指定席となってきた建物の屋根の上に、びっしりと敷き詰められたソーラーパネルを見かけることが増えてきた。住宅の屋根やビルの屋上は何かの陰になることが少なく、ほかの用途に使われていないことも多いので、ソーラーパネルの理想的な設置場所と言える。それにソーラーファームとして新たに土地を整備するより、既存の建物にパネルを設置するほうが環境にも優しい。

しかし、すでにソーラーパネルが設置されている屋上も、実は十分に活用されていないのかもしれない。どうせなら、屋上に設置したソーラーパネルの下で作物も栽培してみてはどうだろうか──。それが「屋上営農型太陽光発電(rooftop agrivoltaics)」と呼ばれる新たな科学分野の提案である。小さな植え込みがあるだけのありきたりな屋上庭園ではなく、実際に機能する農園をつくるというのだ。パネルが日陰になる(実はこれが植物を成長させる)うえ、冷房コストの削減やビル内の電力をまかなうクリーンエネルギーの生成といった建物への恩恵ももたらされるだろう。

世界の都市部の人口は、2050年までに現在の2倍以上に増えると予想されている。大都市への人口流入が続くいま、屋上営農型太陽光発電は住民の食糧をまかなうとともに、都会の生活をしのぎやすくする手段になりうるかもしれない。

PHOTOGRAPH BY THOMAS HICKEY

日陰が植物を育てる

植物の生育場所として、屋上はかなり厳しい環境である。盾になってくれる樹木が近くにないので、植物は吹きつける風や容赦ない日光の直撃を受けることになるからだ。それゆえ、屋上庭園には丈夫な多肉植物が向いているとされる。植物は確かに日光を必要とするが、屋上の日差しはきつすぎるのだ。

「日当たりがよすぎてうまく光合成ができなくなると、植物は『光呼吸』と呼ばれる状態になります」と、コロラド州立大学で屋上営農型太陽光発電について研究する園芸学者のジェニファー・ブセロットは説明する。「二酸化炭素より酸素を多く取り込んで分解し始めるので、エネルギーを無駄に使ってしまうのです」

森林の営みと比較して考えてみよう。森では丈の高い木々を除くすべての植物が、ある程度の日陰を確保できている。低いところに生えた植物には、地面から照り返す光が柔らかく当たる。その周囲の高い樹木も、何もない場所で育つ場合に比べれば風や気温の変化に影響されずに済んでいる。

こうした森林の環境を再現して作物を育てようというのが、営農型太陽光発電の考え方だ。コロラド州で科学者たちによって実施されている地上での営農型太陽光発電の実験では、概して日陰に植えた草木のほうが大きく育つことがわかっている

これは光をより多く吸収しようとする生理的反応によるものと考えられており、レタスのような葉物野菜の収穫量を増やすには好都合な現象だ。また、営農型太陽光発電所ではトウガラシも日なたで栽培した場合の3倍の実をつけるという。さらに、日陰にある植物には水分を蒸発させる日光があまり当たらないので、水やりの量も半分ほどに減らせる。

これと同じ考え方が屋上庭園にも通用する。ソーラーパネルがつくる日陰のおかげで、植物たちは渇きをおぼえることなく元気に育つだろう。屋上パネルの下は夏は涼しく冬は暖かいことがわかったとブセロットは言う。そのうえ、パネルは防風壁の役割も果たす。

仮に食用の作物を植えない場合でも、例えばその土地に固有の植物を屋上の営農型太陽光発電所で栽培し、花粉を運ぶ生き物たちのために花を咲かせることで、近隣の環境に貢献できる。科学者たちの手によって半透明のソーラーパネルも開発されている。直射日光ほどの明るさは必要としないが完全な日陰は好まない植物も、半透明のパネルを上に設置することで理論上うまく成長するはずだ。

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植物が発電効率を上げる

こうした日陰の恩恵の見返りとして、植物のほうもソーラーパネルの発電効率を上げてくれる。植物は光合成の過程で、まるで汗をかくように水蒸気を放出するからだ。ソーラーパネルに熱がこもると発電量が減ってしまうので、立ち昇る蒸気によってソーラーパネルが冷えるのは好都合なのである。

太陽光発電では、光子が原子に当たって電子が飛び出すことで電流が発生する。ところが周囲の温度が高くなると、電子の動きが過剰になってしまうのだ。「パネルの冷却は、電圧を正常に保つ手段としてかなり有効です」と、屋上型営農型太陽光発電の設備を開発するOccidental Powerで管理担当マネジャーを務めるカーマイン・ガロファロは言う。「その場の気温が低いほどパネルの発電効率は上がります」。それゆえ、水の流れによって冷却効果が期待できる運河の上にソーラーパネルを設置する方法を研究している科学者もいるほどだ。

昨今では建物に限らず、都市全体の温度を下げることが急務になっている。都市部の気温が周辺の農村部に比べ、最大で約6.7℃も高くなる場合があるからだ。これは都市ヒートアイランド現象と呼ばれる現象である。

都市では日中に建物に吸収された太陽エネルギーが夜になると徐々に放出されるが、郊外には周辺のあらゆるものの温度を十分に下げる量の植物が存在する。そしてソーラーパネルの下で育つ作物は、郊外の植物とよく似た役割を果たすのだ。

また、ひとつの都市でも場所によって気温が大きく異なることもある。コンクリートだらけの地域の気温は、多くの樹木に恵まれた地域よりも確実に高い。それゆえ気候科学者たちは、各都市の行政当局に強く働きかけて緑地を増やし、この現象を少しでも和らげようとしている。

省エネと発電の両方を実現するシステムとして

しかし厄介なのは、どんな屋根でも営農型太陽光発電所に改造できるとは限らない点だ。第一に屋根は平らでなければならない。土と植物に加えてパネルの重さが加わるので、大がかりな耐荷工事が求められることもある。

また、防水対策は絶対に必要だ。「ビルの所有者や関係者に営農型太陽光発電の概念を理解してもらおうとしても、おそらく一筋縄ではいかないでしょう」と、営農型太陽光発電用設備の開発企業であるSandbox Solarの研究員、トーマス・ヒッキーは語る。

それよりも、ビルを新築する際に屋上型営農型太陽光発電を導入するほうがずっと簡単だと、ヒッキーは考えている。この方法であれば、急速な都市化を進めている国々の政府もソーラーパネル設置に対する補助金を出す場合と同じように、屋上型営農型太陽光発電システムの設置に補助金を出せるだろう。

長期的に見て、営農型太陽光発電は太陽光発電と作物栽培の両方を永続的に実現するシステムと言っていい。「どんな状況でも電力を確保できるようになるでしょう」と、ヒッキーは語る。「そのうえ、野菜であろうとハーブであろうと、都会の真ん中であらゆる植物が手に入るようになるのです」

コロラド州立大学のブセロットの試算によると、コロラド州のデンヴァー郡には営農型太陽光発電に適した屋上スペースが合計5,000エーカー(約20平方キロメートル)ほど存在し、1エーカー当たり5,000ポンド(約2,267kg)の作物の収穫が見込めるという。こうしたスペースの所有者が残らず営農型太陽光発電を導入すれば、ひとつの郡で2,500万ポンド(約11,340トン)もの食糧を生産できることになる。

こうして地域ごとに作物を栽培できれば、気候問題の解決にも役立つはずだ。長距離トラックで二酸化炭素を排出しながら作物を運ぶ必要性が減るうえ、ビルの所有者は屋上を植物で覆うことで断熱効果が得られるのでエネルギーの節約にもなる。

「屋上を緑化することで、年間でおおむね10%のエネルギー削減が期待できます」と、ブセロットは言う。「そこにソーラーパネルの効果が加われば、エネルギー収支はさらに改善されるでしょう」

誤解がないよう付け加えると、ブセロットの研究はまだ始まったばかりだ。地上での営農型太陽光発電に適した作物を探す科学者たちの模索は続いているし、屋上で同じことをするにはさらに丈夫な植物を見つける必要もあるだろう。また、パネルが日よけになったとしても、屋上の環境が過酷であることに変わりはない。

しかし、営農型太陽光発電は世界中の屋上で使われないままになっている空間を活用し、急速な人口増加が続く都市部にクリーンなエネルギーと食糧を供給してくれるかもしれないのだ。植物にとっても損な話ではないと、ブセロットは言う。「あの猛烈な日射しや高温から少し守ってやるだけで、植物たちは勢いよく育ってくれるはずですよ」

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TEXT BY MATT SIMON

TRANSLATION BY MITSUKO SAEKI