本分尽くし生きる「もののけ姫」主題歌に込めたもの 米良美一さんインタビュー
2023年10月27日 05時05分 (11月2日 17時23分更新)
この秋も相次いでテレビ番組に出演して映画の主題歌「もののけ姫」を歌い、「10月はほぼ休みがない」と多忙な声楽家米良美一さん(52)。もののけ姫をテーマにした新エリア「もののけの里」のオープンに、「ひそかに胸をときめかせているんです。ジブリの名作の世界に迷い込んでみたい」と期待する。東京でのコンサートの合間に、楽屋で話を聞いた。 (南拡大朗)
ジブリ名作の世界、迷い込んでみたい
「もののけ姫の世界が現実に再現され、その中に参加できると思うと楽しみ。自分にとっての夢の国じゃないかと思っています」
まだジブリパークに足を運んだことはないが「実はすごく興味がありまして」と明かし、「もののけの里」のオープンを楽しみにしている。
柔らかく澄んだ歌声が印象的な映画の主題歌は一世を風靡(ふうび)した。だが、実は別テイクがあったという。「僕はもっと朗々と歌っていたんです。作詞した宮崎(駿)監督は『これはアシタカの(森に暮らす少女)サンに対する心の声だ』とおっしゃった。OKが出たものを聴くと、見守る温かみとか、秘めたるものが出たんじゃないかな。『歌っちゃだめ』というのは今は分かるんです。いい歌はせりふのように歌えるから。まだ道半ばですけど、そのことを頭に浮かべながらコンサートに出ています」
カーラジオで流れた米良さんの歌を宮崎監督が聴き、依頼した主題歌。男性が裏声で女性の声域を歌うカウンターテナーは一般的には知られていなかった。当時、留学のためオランダに渡ったばかりだった米良さんは関係者から国際電話を受け、「『宮崎のアニメ制作会社から』と聞いて焼酎か何かの歌だろうと思ったんです。帰国したら宮崎駿だとわかって『えー』って…」。未完成だった5分ほどのアニメーションのイメージ映像を見ると、故郷の九州山地の自然や神話を思い出して親近感が湧いたという。
脳卒中からの復帰、感謝に向けて歌う
先天性の骨形成不全症で子どものころから入退院と手術を繰り返し、2015年にはくも膜下出血で倒れながらも復帰を果たした。「脳卒中サバイバー」の一人として啓発活動にも参加している。「今は生活そのものがリハビリ。左足に装具をつけサイボーグみたいなものだけど、それでも生きていかないといけない。しかも食べるためだけじゃなく、一生懸命に本分を尽くす」。そんな思いは、25年たったいま、「もののけ姫」を歌う時に内包されているという。「誰かに向かってではなく、目の前にある感謝に向かって歌っています」
めら・よしかず 1971年生まれ、宮崎県西都市出身。洗足学園音楽大で声楽を学び、カウンターテナーの歌手としてバッハの宗教曲などのソリストを務めた。97年公開の映画「もののけ姫」の主題歌を歌ってヒットした。
この記事は中日新聞の特集紙面<月刊ジブリパーク>に掲載されました。
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