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殴り合いは会話なのだ──松山ケンイチはなぜ、負け続きのボクサーを演じたか?

闘っても闘っても試合に勝てないボクサーを、松山ケンイチが映画『BLUE/ブルー』(4月9日公開)で演じた。最初は「やりたくなかった」というが、どうして? 

ジャケット ¥97,000、パンツ ¥67,000〈ともにLEMAIRE/スクワット/ルメール〉  その他私物

Tatsuro Kimura

「𠮷田恵輔監督の作品は言葉で説明がつかない印象でした。自分の感性にダイレクトに語りかける、日本語でも英語でもない監督独特の"言語"があるんです。この脚本も、哀愁のようでも情熱のようでもあり、勢いもあれば枯れている感じもある。言葉で説明できる人物像を演じるときとは別の感覚になるのではと思い、最初は出演するかどうか悩みました。それに、できれば関西弁とボクシングはやりたくなかったので(笑)」

ボクシング映画は世にごまんとある。松山は自分がボクシングに対して素人であることを観客に"見破られる"のがイヤだったのだ。

「"この人、ボクサーの演技頑張ってるんだな"と思われたら、作品の伝えたいところを伝える前に、つまずいてしまう気がして」

しかし、いや、だからこそ、松山は2年の月日を費やしてボクシングを自分の中に徹底的に落とし込んだ。演じる瓜田という男は負け続きのボクサー。

「"勝ったときの快感は忘れられない"とプロボクサーの方がおっしゃっていたんですが、瓜田は負け続けているわけだから、それでも彼がボクシングを続ける理由の理解が必要でした。続けるうちに思ったのはパンチの掛け合いは言葉の掛け合いでもあるということ。コミュニケーションというか、セッションなんですよね。瓜田の中ではボクシングジムが社交場であり、居場所でもあったはず。ボクシングをやることと誰かとつながることは根底が似ているのだと、改めて気付かされました」

瓜田は"試合に勝つ"ことがなくても、誰にも負けない情熱でボクシングを愛する人物。

「努力しても報われないことはあります。でもやったことはすべてが宝物なんですよね。それに敗者がいなければ勝者もいない。勝者だけが注目されがちですが、負けることで実はとても大事なバトンを相手に渡しているんじゃないかと、そう思うんです」

『BLUE/ブルー』

挑戦者を象徴する"ブルーコーナー"で戦う男を描いた作品。負け続きのボクサー・瓜田(松山ケンイチ)や抜群のセンスで勝ち上がる後輩・小川(東出昌大)ら、夢に焦がれる若者たちの葛藤だらけの日々を描いた青春ドラマ。4月9日全国ロードショー。

FROFILE

松山ケンイチ  俳優
1985年生まれ、青森県出身の俳優。2005年に『男たちの大和/YAMATO』で注目を集め、2006年『デスノート』でブレイク。2016年『聖の青春』では第40回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。コメディからシリアスまでどんな役柄でも自在にこなす演技派俳優。

Photo 木村辰郎 Tatsuro Kimura 
Styling 五十嵐堂寿 Takahisa Igarashi
Hair&Make-up 勇見勝彦 Katsuhiko Yuhmi@THYMON Inc. 
Words 前田美保 Miho Maeda