SUZUKI GS400 【OWNER:チシオ】
© BERNESE
Motoring

【美麗族車 5選】世界が注目するニッポンの『改造文化遺産』にマジメに迫ってみる

カスタムペイント、ロケットカウル、三段シート。日本のストリートが生み出した孤高の『改造バイク』を、文化的側面から語る。
Written by Kunitoshi Aoki
読み終わるまで:7分最終更新日:
日本におけるバイクの改造文化のルーツは、1960年代に誕生したカミナリ族がその起源とされている。カミナリ族とはバイクのマフラーを改造し、大きな音を立てながら街中を走り回る若者たちのこと。スピードを追求してバリバリと雷鳴のような音を出しながら走る様子からこんな名前がついた。
そして、1970年代に入ると、その姿に憧れる若者達が一気に増加、グループごとに集団を作って夜な夜な走り回る暴走族へと変わる。その頃から改造のスタイルも大きく様変わりする。
より過激に自己主張をするために三段シートと呼ばれる、背を伸ばしたシートを装着し、ハンドルは中央に絞り、上に持ち上げるスタイルが大流行した。一説によると、このハンドルは、バイクのボディの内側に収めることで、パトカーに追われた際のすり抜け走行をする目的で考え出されたとされる。
また、改造面ではマフラーは腹下でカットする直管、より爆音で目立てるように工夫した。さらに、レーシングカウルに独自のペイントを施して「」を主張するための手段とした。

時代とともにアートへと昇華した『改造』

1990年代後半に入ると警察の取り締まりが功を奏し、ほぼ暴走族はいなくなった。
だが、日本の族文化はそこで消えることなく、暴走族OB達で結成された「旧車會」と名を変え、新たにバイクの改造スタイルが継承された。
旧車會

旧車會

© BERNESE

彼らは、俗にいう根っからの改造好きであり、バイクにお金をたくさんかけた。
また、『改造バイク=非社会的行為』という図式から離れ、『改造バイク=クラフトマンシップ』として認識し、一般的なルールや良識の範疇内でカスタムを楽しむというカルチャーも加速している。
その仕上げは、まさにアート感覚に富んだ出来栄えであり、見る者を魅了する。仲間同士でカスタムを競い合い、互いに切磋琢磨することで、自然と磨かれた族車の改造手法は、ひとつのカスタムスタイルへと進化し、豪華絢爛に華咲き、現在、全世界の注目の的になっている。
独自に進んだ日本の改造カルチャーの中でも、異端児的存在の族カスタム。少年の心を持ち、大人の財力によって仕上げたそのスタイルは、決して他では見ることができない日本独自の改造文化遺産として名を連ねることだろう。

改造バイクの、『今』

現在、日本のカスタムシーンにおいて、ベース車として人気なのが、暴走黄金期である1970年代後半から1980年代に登場した名車達。その中でも一世を風靡したホンダCBXを筆頭に、ホークⅡ、CBRといったホンダ車が王道とされている。また、スズキのGS、GT380はその独特の排気サウンドに惚れ込むファンが多く、カワサキでは、比較的若い人たちにゼファーが好まれている。その理由は、トラブルが少なく、スピードも速いからだ。
日本の改造愛好家たちは、こうしたバイクをベースに自分が思い描くとおり、自由な発想力でカスタムをしていく。見た目はもちろん、良いサウンドを引き出すためにチューニングも施す。他人よりも一歩も二歩も抜きに出る工夫。その追求の積み重ねによって、最高の1台を生み出す答えを導き出している。

◆職人魂を見せつける『改造バイク5選』◆

HONDA CBX400F

【OWNER:0084摩耶】
HONDA CBX400F 【OWNER:0084摩耶】

HONDA CBX400F 【OWNER:0084摩耶】

© BERNESE

黄金に輝くこの単車は、ホンダCBX400Fである。そのスタイルは旧車會カスタムとして王道だが、仕上げ方が特殊。エンジン、フレーム、ホイール、フロントフォーク、スイングアーム、ハンドル、マフラーにいたるまで、すべてのパーツが黄金に輝く金メッキ処理を施している。装着している外装パーツもゴールドベースに7色金ラメを使い、そこに紫に赤い縁を入れたフレアーを大胆に描く。
HONDA CBX400F 【OWNER:0084摩耶】

HONDA CBX400F 【OWNER:0084摩耶】

© BERNESE

HONDA CBX400F 【OWNER:0084摩耶】

HONDA CBX400F 【OWNER:0084摩耶】

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さらに、ロケットカウル上部に、オーナーの出身地である大阪の街並み、そしてタンク上部に自らをモチーフにした着物姿の女性を描く等、このうえないアート感覚に満ち溢れた1台として仕上がっている。この単車は、まさに最高のカスタムであり、旧車會における芸術アートな日本の伝統文化を表現する極みといっても良いだろう。

SUZUKI GS400

【OWNER:チシオ】
SUZUKI GS400 【OWNER:チシオ】

SUZUKI GS400 【OWNER:チシオ】

© BERNESE

まさに「」のカスタムペイントを施したこのバイクは、スズキGS400をベースにしている。ロケットカウルには天高く舞い上がる龍を描き、その姿は和彫りの入れ墨師がバイクにあてたかのような姿を見せる。書き下ろされた龍は、車体全体を使って流れるように描かれる。BEET製のアルフィンカバーとテールに連なるように1頭の龍が収まる。
SUZUKI GS400 【OWNER:チシオ】

SUZUKI GS400 【OWNER:チシオ】

© BERNESE

装着しているパーツの多くは、画の引き立て役としてシルバーとゴールドのコンビネーションでまとめる。ゴールドのインナーチューブにブレンボキャリパー、マーシャルポイントカバーと、随所が金色に彩られている。背後にそびえる大阪城と、この単車の共通項は間違いなく、その壮大さであろう。

KAWASAKI ZEPHYR400

【OWNER:8198】
KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:8198】

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:8198】

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日本におけるネイキットブームの立役者であったカワサキ・ゼファー。旧車會においては、若年層に人気で、そのアプローチの仕方もいわゆる族スタイルではなく、走り屋的なテイストが多く、カフェレーサーにも似た仕様を好む傾向がある。と、いうのも、その改造そのものは、カワサキが放ったかつての名車Z1の流れを汲むもので、このゼファーにおいても、それとの結びつきが強い。
このゼファーのイジリ方は、先にも述べた通り、全体的にシンプルなアプローチだが、押さえるべきポイントを絞り込むことで、結果として硬派を主張する雰囲気を醸し出す。このバイクの場合は、ゴールドとブラックのみのコーディネイトで、タンクとテールにスピードを表現するフレアパターンを入れる演出を施す。
KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:8198】

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:8198】

© BERNESE

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:8198】

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:8198】

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KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:8198】

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:8198】

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それ以外ではBEET製エンジンカバー、エンデュランスマフラー、キャブカバーといったパーツを装着するが、一番アート感を引き出しているポイントは、やはり、いさぎよく、そして勢いよく入れられたゴールドフレアだろう。迫力、存在感、威圧感を高める要素となっている。

SUZUKI GT380

【OWNER:トヨパチ】
SUZUKI GT380 【OWNER:トヨパチ】

SUZUKI GT380 【OWNER:トヨパチ】

© BERNESE

2スト3気筒という変わった発想で作られたスズキGT380は、1972年にデビューした。元々あった250㏄エンジンに1気筒追加し、単純に排気量を高めて馬力を出す目的で作られた380㏄エンジンは、その特徴的な排気音を発することで、当時の若者達を魅了した。また、3気筒なのに4本マフラーというスタイルもウケた。
SUZUKI GT380 【OWNER:トヨパチ】

SUZUKI GT380 【OWNER:トヨパチ】

© BERNESE

SUZUKI GT380 【OWNER:トヨパチ】

SUZUKI GT380 【OWNER:トヨパチ】

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SUZUKI GT380 【OWNER:トヨパチ】

SUZUKI GT380 【OWNER:トヨパチ】

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このGT380は当時のレトロバイクを、旧車會ならではのセンスによってリメイクしたもの。当時流行ったイノウエ製の三分割ロケットカウルを装着し、全体をムラサキで統一。そこにゴールドのロゴマークとラインを引く。遊び心という面では、ヘッドライトの横に羽ばたく鶴を配置し、テールに海波を入れ、浮世絵風の画風によってワンポイントで目立つ工夫を施す。全面画にするのではなく、あくまでもポイントメイクにしているあたりが玄人の仕上げと言えるだろう。

KAWASAKI ZEPHYR400

【OWNER:5914】
KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:5914】

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:5914】

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このカスタムバイクのベースはカワサキ・ゼファーだ。オーナーは九州・福岡在住。実は九州地区では、旧車會仕様も独自性に富んでいて、他ではあまり見かけないパステルカラーのバイクが多い。そして、ロケットカウル装着車の場合は、ジョーズ顔を描き、遊び心で魅せるスタイルも流行っている。この仕様、そもそもの原点は、紛れもなく戦時中のアメリカ軍の戦闘機、爆撃機に描かれていた画風を参考にアレンジが加えられている。
KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:5914】

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:5914】

© BERNESE

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:5914】

KAWASAKI ZEPHYR400 【OWNER:5914】

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ひと口にジョーズ顔といっても、そのスタイルは様々で、このバイクの場合は、イエローの下地にレッドのバクハツマークを入れ、そこにジョーズ顔を組み合わせている。また、ロケットカウル下部、タンク、テール裏に星がマーキングされているが、これはオーナーが所属している「スターダスト」のチーム名を表した証である。
全体的に原色を組み合わせて仕上げるのが福岡仕様。パーツのセット位置についても、ロケットカウルとテールはより高く持ち上げ、存在そのものをアピール。こうした技法は他人よりも目立ちたい、という意思の現れにつながっている。
(了)