映画は3つの技術革新を経て現在のものになった。1は音を持つ、2は色がつく、3が画面のヨコ長ワイド化。『男はつらいよ』の画面は全作シネスコで、最もヨコ長なサイズ。なぜ山田洋次監督はシネスコにこだわったのか。第15作『寅次郎相合い傘』の有名なメロン騒動を見よう。
騒動の発端は、寅次郎の友人(船越英二)が贈った高級メロン。北海道で寅と再会し、とらやを訪れていた旅回りの歌手リリー(浅丘ルリ子)と、とらや一同の計6人でメロンを食べようということになった。このとき寅は外出中。
6等分して居間で食べ始めたとき、寅が帰宅する。「あらいけない、寅ちゃんの分忘れちゃった」とおばちゃん(三崎千恵子)。あわてふためく博(前田吟)は「隠しましょう」。
寅はのけ者にされたと激怒する。さくら(倍賞千恵子)らが口々に「ごめんなさい」と謝り、取りなそうとするが、寅の怒りはエスカレートし、おいちゃん(下條正巳)と物を投げ合う。
すると見かねたリリーが、とらやを擁護しつつ「ろくでなしのあんたを大事にしてくれる家がどこにあるってんだ。甘ったれるのもいい加減にしやがれ」と愛情あふれるタンカを切る。寅の激高は収まらず家を飛び出していく。
食卓を囲んで、みんなが発言するシーン。だがカメラはしゃべる人ひとりだけを映すことをしない(テレビドラマでは一人ひとりの大写しが多いのを思い起こしましょう)、さくらの発言に聞き入る家族の姿を同一画面に映し出す等々。クローズアップを避け、画面に複数人物が見える。
「家族が同じ画面に映る」ことに山田監督はこだわる。家族は一つ、との思いがあり、そのためにはヨコ長画面が必要なのだ。これは一例で、とらやのシーンすべてに通じる。