加山雄三、年内でコンサート引退 若大将「けじめは自分で」

コンサート活動引退について語る加山雄三(石井健撮影)
コンサート活動引退について語る加山雄三(石井健撮影)

歌手で俳優の加山雄三(85)が、今年いっぱいで人前で歌うのをやめる。作曲や絵画など創作活動は続けるが、実質的な引退宣言といってよい。「寂しくはないね。一生懸命やって、やりきったからさ。何事にもしまいはある」。85歳になった若大将。人生について、大いに語る。

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寂しくないよ

約束の時間を少し回った頃。「遅れた、遅れた」。ブレザーにストライプのボタンダウンシャツ。アイビールックの加山が、取材場所のビルの玄関に飛び込んできた。

今年4月で85歳になった若大将。元気だが、6月に、「年内でコンサート活動から引退する」と発表した。9月に東京都内で「加山雄三ラストショー~永遠の若大将~」を開催。10月に静岡県で開かれた野外フェスティバルに出演し、9日夜、豪華客船で開く海上コンサートを最後にする。

映画大手、東宝の専属として映画デビューした翌年の昭和36年、「夜の太陽」で歌手としてもデビュー。

「最初のコンサート? 覚えてねえな。当時、東宝所属の俳優は、正月に必ず東京・有楽町にあった日本劇場に出ないといけなかったの。だから、それが人前で歌った最初だったんじゃないかな」

つまり60年以上、ステージで歌い続けた。それをやめる。

「寂しくはないね。もう出し切っているから。一生懸命やってきたからね」

限界ってあるよな

決断は、年頭にしたという。

「倒れたじゃん、俺さあ」。3年前に脳梗塞、一昨年は小脳出血。立て続けに病に倒れた。特に一昨年は、危険な状態だったという。退院してから歌に支障はないことを確認。そのときは、安心した。

だが、「やっぱり限界ってあるよなあ」と考えるようになっていた。

「俺の歌は音域が広いんだ。85歳になったら誰も歌えないような歌だよ。『こんな歌、作るなよ、ばか野郎!』って自分に腹が立ってね」

9月の公演も10月の野外フェスも、素晴らしいパフォーマンスを披露したが、「実はさ、当日のリハーサルまでは声がガサガサのガビガビ。皆、心配しちゃって」と明かす。

「だけど、不思議なもんでね。お客さんの顔を見たら、力以上のものが出てくるんだよ。本番になったらスーッとね。そのことに自信を得て、本番中にどんどん歌えるようになって」

60年以上ステージに立ち続けた音楽家だけが起こせる奇跡だ。だが、これからも奇跡が起きるとは限らない。

野外音楽フェス「朝霧JAM」で熱唱する加山雄三=10月9日、静岡県富士宮市(提供/森下友加里撮影)
野外音楽フェス「朝霧JAM」で熱唱する加山雄三=10月9日、静岡県富士宮市(提供/森下友加里撮影)

じじ大将に

弾厚作(だん・こうさく)名義で作曲を手掛け、シンガー・ソングライターの先駆けとなった。日本人で最初にサーフィンに挑戦し、初めてスカイダイビングのライセンスを取得した。

日本を代表するスターとして来日中のビートルズをホテルの部屋に訪ねたこともあった。その際、記念写真を撮られたが、バンド全員と一緒に公式写真に収まった世界でただ一人の第三者になった。

「ありがたいよね。なんか、常にそういうチャンスがあった。そしてそのチャンスに飛びついてきた」

日本の空前のエレキブームに火をつけたのも加山だった。だが、脳梗塞で倒れる以前、指の病気を患い、もうギターは弾かない。

「人間はさ、始まりがあればしまいもある。きちんと自分で決めて、そこでピタッとやめるんだ。自分のことは自分が一番知っている」

未発表の楽曲の録音を見つけたので、新たに歌詞を付けて発表するなど創作活動は続けるつもりだ。

だが、歌番組も少ない昨今、コンサート活動をやめることは表舞台から去ることを意味する。

「けじめだよ。けじめは自分でつけるもの。年を取るとやっぱり駄目だ。例えば、健康のために1キロ歩く。やっぱり疲れる。若い人に言うんだ。85歳。なってみれば分かるよって。まあ、でも、95歳ぐらいまでは生きていたいね」

95歳の若大将。「いやあ、じじ大将だよ」。大きな声で笑った。

(石井健)

かやま・ゆうぞう 昭和12年、神奈川県生まれ。俳優の上原謙と小桜葉子の長男。慶応大卒業後、35年、東宝に入社し、映画デビュー。翌年の「大学の若大将」で人気を獲得。「若大将」シリーズは17作が作られる。一方で、黒澤明監督の「椿三十郎」「赤ひげ」など名匠たちの作品にも多数出演。また、「大学の若大将」の挿入歌「夜の太陽」で歌手デビュー。その後、「弾厚作」名義で作曲を手掛け、日本のシンガー・ソングライターの先駆けに。「君といつまでも」など多数のヒットを放つ。エレキギターブームも牽引(けんいん)。シンガー・ソングライター、谷村新司との共作曲「サライ」は民放のチャリティー番組のテーマソングとして長く親しまれた。

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