能登半島地震の被災地では、多くの受験生が避難所での生活を強いられている。13日に始まる大学入学共通テストまで1週間。本来なら勉強にラストスパートをかけ、本番に備えて体調管理に意を注ぐ時期だが、机に向かえる時間は激減した。志望校への出願すらもおぼつかない状況に、生徒らは不安を募らせる。
勉強5分の1に
震度6強の揺れと津波に襲われ、全域が壊滅的な被害を受けた石川県珠洲(すず)市。県立高校の教室で家族と避難生活を送る高校3年の女子生徒(18)は沈んだ声で話した。
「勉強どころじゃない…。1日10時間は勉強していたが、今はやれるときにやろういう感じ。本番が来るという実感も、緊張感もない」
それでも意欲は保っており、13日からの本試験に挑戦するという。
高3の平蔵士恩(へいぞうしおん)さん(18)も珠洲市内で避難生活を余儀なくされている。男手として避難所の作業を手伝う傍ら、受験勉強を続ける。午後9時には消灯するため、1日1時間。被災前の5分の1に減った上、人の出入りもあって集中が難しいという。
市内の自宅で私立大の願書をインターネットで出願しようとしたところを震度6強の揺れに襲われた。出願できないまま受け付けの期限が迫っていたが、担任が大学と連絡を取ってくれ、期限を延ばしてもらえそうだという。共通テストにも本試験で挑む。
担任の長谷川仁嗣(ひとし)さん(34)も避難生活を送りながら生徒を支える。「落ち着いて試験に臨めるか不安だ」と話しつつも、被災しても教え子が受験をあきらめていないことを喜んでいた。
追試験も視野に
共通テストは13、14日に本試験が予定通り実施される。文部科学省は被災が原因で受験できない場合、特例として27、28日に行われる追試験を受けられるようにすると表明。追試験会場も当初の東京と京都に加え、石川県にも設置する方向で調整している。本・追試験ともに受験票が手元になくても受けられるように対応する。
2月に入ると、私立大の入試も本格化する。追試験を選ぶとタイトな日程を強いられるが、限定的だが猶予を得られるというメリットもある。
河合塾教育研究開発本部の近藤治主席研究員は「それぞれの受験生で置かれた状況が異なる。自身の心身の状態を考慮した上で、進路指導の教員や保護者とも相談して本試験と追試験のどちらを受けるのか、冷静に見極めてほしい」と話す。
交流サイト(SNS)では追試験は本試験よりも難易度が上がるのではと不安視する向きもあるが、近藤氏は「意図的に難易度を変えて作問がなされることはないので、臆測には振り回されない方がいい」と語った。
文科省は国公私立大に対しても、個別試験の出願期間の延長や受験日の振り替えなどを柔軟に行うように要請している。(玉崎栄次、宮野佳幸)
「昨年並み以上の難易度想定を」
大学入学共通テストは4度目の実施となる。回数を重ねることで問題量や出題形式が安定化してきており、今回も大量の文章やデータを読み解かせる設問が中心になるとみられる。河合塾教育研究開発本部の近藤治主席研究員は「解答時間が足りなくなることは明らかなので、あらかじめ時間配分をシミュレーションしておき、本番は着実に解ける問題からクリアしていくことが重要になる」とアドバイスする。
レベルの高さは思考力を測るという共通テスト本来の目的ゆえだ。近藤氏は「共通テストは見たことがない問題が出るのが当たり前。難易度を下げると、(暗記中心だった)大学入試センター試験に近づいてしまう。昨年並み以上の難易度を想定しておくのが得策だ」と強調する。
試験直前の1週間は本番に向けてコンディションを整え、模擬試験や問題集で間違えた問題や、苦手分野に特化した復習が効果的だという。