イギリス人のレイチェル・ワイズは、“オスカー俳優”であり、ダニエル・クレイグの妻でありながら、謎めいたところの多い女性である。4月15 日にカンヌで開催された「カンヌシリーズ国際フェスティバル」では久々のレッドカーペットに登場した彼女が主演するドラマシリーズ「戦慄の絆」(2023)の冒頭のシーンに拍手が集まった。
美しいだけではない、「奥行きのある」存在感を持つ俳優。それがレイチェルの出演作を観ていつも感じることだ。明るいだけではなく、どこか影や凄みを纏っていて。英国アカデミー賞助演女優賞を受賞した『女王陛下のお気に入り』(2018)では、エマ・ストーン演じる女中と、オリヴィア・コールマン演じるアン女王の寵愛を競い合う侯爵夫人に扮している彼女。エマ・ストーンの若い輝きに負けない、レイチェルの色っぽさが印象的だった。
あれは酸いも甘いも噛み分けてきたレイチェルの、自分を律する強さから来ているのではないか。若いときの“無分別さ”が放つ色気とは、また別次元の。自分の肉体や感情のコントロールを習得した者が持つ、自信に満ちたものだと思うのだ。
私生活では映画『ドリームハウス』(2011)で共演したダニエルと、2011年に極秘結婚。ダニエルには6年も交際している婚約者が居たため、略奪婚だと噂された。ふたりが撮影で出会った時期にはレイチェルにもダーレン・アレノフスキー監督と交際していたので、お互いパートナーを捨てて熟年の恋に走ったとも言われている。結婚した当時、レイチェルはすでに40代。しかしシエナ・ミラーやケイト・モスなどの人気セレブと浮名を流して来たダニエルが夢中になるのも頷けるほど魅力的。その後、2018年にはダニエルとの間に第一子を48歳にして出産。これは『女王陛下のお気に入り』で英国アカデミー賞を獲得したのと同じ年であり、アラフィフと呼ばれる世代になっても彼女がプライベートでもキャリアでも劇的な人生を生き続けているのがわかる。
夫ダニエルと登場した数少ないレッドカーペットでは、少女のように嬉しそうな笑顔を見せてウィリアム皇太子に謁見するダニエルの手にこっそり触れる、成熟したレイチェルのギャップ。それと私生活をあまり明かさないミステリアスさが、さらなる色気に繋がっているに違いない。ワンパターンではない、予想できない表情の引き出しを持つ。それこそが年齢を重ねて様々な経験や感情を味わって来た大人にしか出せない、“深み”の秘密なのかも。
Text: Moyuru Sakai Editor: Toru Mitani