CELEBRITY / Voice

女優フリーダ・ピントが語る、ハリウッドと怒りと自分らしさについて。

キラキラと輝く笑顔の裏に、彼女は強い意思と使命感を持っていた。女優フリーダ・ピント、34歳。ハリウッドという大きなシステムに潜むさまざまな矛盾と戦いながら、彼女は演じ、ヨガをし、愛する人と旅に出て、いまを生きる。インドをルーツにもつこの聡明な女優が、出世作『スラムドッグ$ミリオネア』後のスランプから#MeToo運動、そして女優としての使命について語った。

フリーダ・ピントに会ったのは、ロサンゼルスの緑豊かなハンコック・パークにあるコーヒーショップだった。私たちが注文したレモンジンジャーティーを受け取ると、目をつけていた外のテーブルはもうとられていた。フリーダはこちらを向くと「行きましょ!」と言って、ラーチモント・ブールバードを走って横断した。そして、持ち込みがバレないように祈りながら、近くのカフェに素早く入り、席を押さえたのだった。

「私、2日おきにここで朝食をとってるから大丈夫よ」

彼女は「100万ワット」の笑顔で言った。彼女のこの笑顔に向かって「ノー」と言える人間が、果たしているのだろうか?

「でも、追い出されるってこともありえるわね。もはや私は、どんなことも当たり前だとは思わないようにしているの」

アカデミー賞で8冠を制覇したダニー・ボイル監督の『スラムドッグ$ミリオネア』での当たり役以降、フリーダは、現在の映画界でもっとも著名な監督たち(ジュリアン・シュナーベルやマイケル・ウィンターボトム、テレンス・マリックなど)のもと、クリスチャン・ベールケイト・ブランシェット、ウィレム・デフォーなどと共演し、ひとつひとつの役を丁寧に、そして静かに成功させてきた。しかし本作以降、オファーが殺到したにもかかわらず、彼女を取り巻く状況はそう輝かしいものではなかったようだ。

彼女は手を空に伸ばしながら、こう話し出した。

「『スラムドッグ$ミリオネア』のときは、ひたすら上へ上へとのぼっている状態だった。でも、誰だっていつかは下降するときがくる。そうでしょ? 高いところからスタートすればするほど、そのあとの落ち込みを激しく感じるの」

「役を断らなければよかったって後悔したわ」

映画『スラムドッグ$ミリオネア』(2018年)より。Photo: Fox Searchlight/Everett Collection/amanaimages

20代の後半は、ほとんど仕事をしなかった。それは、彼女のキャリアでもっとも難しい時期だったとフリーダは回想する。「空白」の理由の1つは、やりたいと思える魅力的な役に出合えなかったこと。

「与えられるオファーに、ひどく傷付いたわ。『これが私にふさわしい役だと思われているの?』って。ひいては、ハリウッドの権力者について考えたことを覚えてる。大きな不安を感じて、『断らなければよかった』って後悔し、どんどん行き詰まっていったわ」

彼女は、過去のインタビューでも語っていた「異国のお姫様役」のことを話しているのだろうか。

「そうよ。その役はもうやった、一度で十分よ。のちに、『こんなくだらない役は二度とやりたくない。これじゃ、自分のキャリアを成長させることなんてできない』と思ったの」

ハリウッドの現実を目の当たりにし、目が覚めるような体験、つまり、彼女のような有色人種の女優に与えられる役柄が、あまりに限定的であることを知ったことが、結局は自身の成長にとって決定的な時間となった。

LAが教えてくれた「心の開き方」。

現在34歳のフリーダは、いま、自分らしいやり方でカリフォルニアスタイルに染まっているように見える。

「2011年にロンドンからLAに移ったときは、前向きじゃなかったの。最初の2年間は嫌な気持ちでいっぱいだったけれど、いまでは、少し離れただけでこの街が無性に恋しくなるわ」

彼女はこの街で、プリーティ・デサイ(元ミスイングランド)という友人にも恵まれた。フリーダはデサイのことを、愛情を込めて「妻」と呼んでいる。ルームメイトである二人は、毎朝瞑想と詠唱を行い、身を清め(現在、赤身の肉は食べない)、シンプルで無駄のないライフスタイルの恩恵について話すそうだ。そして、年に4回はクローゼットを整理し、「絶対に不可欠」ではないと判断したものは、すべて処分しているという。

フリーダのヨガの先生は、シルバー・レイクにスタジオを構えているが、ヨガはLAとは関係なく、振付師のエリン・エリオットと仕事をした2014年の映画『Desert Dancer(原題)』の影響だと主張する。

「エリンがヨガをしたことがあるか聞いてきたの。私は、『まさか! 私にヨガをやらせようとしないで。LAでヨガをやっている人は、みんなフェイクよ。だってそうでしょ、私はヨガの国から来たんだから! 白人からヨガを教わる必要はないわ!』って答えたの(笑)。その後すぐ、自分が間違っていたことを知ったのだけど」

彼女は、今でも申し訳なく思っていると言って、少し視線を下げた。

「ヨガを通じて、初めて自分の身体を発見したわ。悲しみや幸福感を抱えている場所が分かるの。おそらく、感情的に開放されたんだと思う」

やりたい役は自ら取りにいく。

Netflixオリジナル映画『モーグリ:ジャングルの伝説』独占配信中。

フリーダに会ったとき、彼女は48日間のインド・ネパール旅行から戻ってきたばかりだった。2008年にロンドンに旅立って以来、インドでもっとも長い時間を過ごしたことになる。この旅行の目的は、表向きにはNetflixの新作映画『モーグリ:ジャングルの伝説』のプロモーションのため。この作品では、監督のアンディ・サーキス(『猿の惑星』で共演)に自ら電話し、役をくれるように直談判した結果、モーグリの母メシュア役を射止めたのだそうだ。そして非公式な目的としては、冒険写真家のボーイフレンド、コーリー・トランのツアーガイドをするためだった。2人はムンバイで合流し、彼女が育った場所を見て回り、母親や父親、妹にも会った。旅はとても順調だったようだ。

「でも、彼は強烈な香辛料に対する心構えはできていなかったと思うわ」

彼女はそう笑う。ボリウッド映画に一度も出演していないことの利点は、フリーダが比較的目立つことなく、母国内を移動できるということだ。トランも、セレブの世界にまごついたり、特に夢中になっているわけでもない。

「彼はセレブリティの世界をまったく意に介してないの。彼のそんなところが大好きよ」

「嫉妬と不安にまみれて生きる役に没入したわ」

Photo: Big Stuff/Everett Collection/amanaimages

2018年、フリーダは映画『Love Sonia(原題)』に出演した。ムンバイ、香港、ロサンゼルスで撮影されたインド映画で、彼女は当初から、女優人生で一度しか出合えないような作品であり、伝えるべきストーリーの1つであると理解していた。手がけたのは、作家で映画監督、そして活動家のタブレス・ヌーラニ。本作は、インド人の少女がムンバイの歓楽街に消えた姉を探すストーリーで、実際の出来事にもとづき、性奴隷産業の実態を描いている。

フリーダとヌーラニが初めて出会ったのは、『スラムドッグ$ミリオネア』のセットだった(当時、彼はラインプロデューサーだった)。そのときヌーラニは、『Love Sonia』の初期の脚本を読んでほしいとフリーダに頼み、彼女はその内容に衝撃を受けた。そして、暴力を受け続けたことで統合失調症を患う30代のセックスワーカー、ラシュミという役柄に引き込まれた。

「脚本を読んだのは、『スラムドッグ$ミリオネア』で眩しすぎるキャラクター、ラティカを演じ終えたばかりだったから、なんだか生き返った気分だった。嫉妬にまみれ、トップの座に返り咲くこともできない、不安に生きる役柄に没入した。ラシュミは、特別な人間になりたがっているの」

「イメージを変えるような、ワイルドなことをしたい」という願望も手伝って、最初に脚本を読んでから10年経っても、フリーダのラシュミへの共感は消えるどころか、どんどん増していった。『Love Sonia』での彼女は、長年ビディ(インドの煙草)を吸っているように見せるため歯を黄ばませ、花柄のスパンデックスショーツを履き、青いクロップトップを着て、腰のまわりには紫のサッシュを付けている(フリーダ自身が衣装を選んだ)。もはや、フリーダとは認識できないほどだ。

#MeToo運動と「怒り」について。

「#MeToo」後の状況を考えると、この作品はとくにタイミングが良かったとフリーダはいう。

「性奴隷産業であっても#MeToo運動であっても、本当は説明責任が求められるはずよ。人は、やりたいことは何でも実現できると勘違いしている。なぜなら、それが実際に『できてしまう』からよ」

2018年9月、当時最高裁判事候補だったブレット・カバノーが過去に行った性的暴行に対し、被害者の一人であるスタンフォード大学のクリスティン・ブラジー・フォード教授が宣誓証言したが、その後、結局カバノーは連邦最高裁判事に就任した。彼女のこの一件を引き合いに、苛立ちを隠せない表情でこう続けた。

「フォード教授の証言には、十分に説得力があった。それでも、カバノーが最高裁の非常に強力な立場に就くのを阻止することはできなかった。社会の変化を拒んでいるのは、そういうこと。それでも、大勢で連帯して力を示すことはとても大事だと思う。『#MeToo』運動もそう。私は、怒りを表すことに問題があるとは思わない。それは、人間として当然で健全な行為だから」

では、フリーダ自身は何に怒りを感じるのだろう?

「この世界には、常に(他の人種よりも)軽く扱われる特定の人種がいる。でも、私は『自分の肌の色が、この役を得る決め手になったのかもしれない』と自分を責めたり、自己憐憫したくない。それは私の心の内にあるもので、誰かに話すことじゃないから。わたしは、自分にふさわしいものを然るべきときに受け取りたい。誰も、それを私から奪うことはできないわ」

「私の役目は、正しいストーリーを伝えること」

フリーダのターニングポイントとなったのは、イギリスのドラマシリーズ『Guerilla』への出演だった。実に2ヶ月以上にわたるオーディションを経て、彼女は主役の座を射止めたのだった。イギリスのブラックパンサー運動に触発された本作は、70年代の政治色の濃いロンドンを舞台にしている。脚本と監督を担当したのは、『それでも夜は明ける』(2013年)の脚本を手がけたジョン・リドリーで、共演者にはイドリス・エルバが名を連ねる。

「私にとってもっとも大切なのは、オスカーを総なめにするような大ヒット映画に出演するよりも、正しいストーリーを語ること」

フリーダの次回作は、黙示録後の世界が舞台のラブストーリー『Only』、そして、ジョン・リドリーと再びタッグを組んだ待望作『Needle in a Timestack』。後者は、3月にテキサス州オースティンで開催されるSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)でプレミア上映される予定だ。蛇足だが、オースティンは、フリーダとトランが最近家を購入した場所。彼女は、「いつか子どもを授かったら、きっとバーベキュー好きなママになると思うわ!」と顔をほころばせた。

Text: Kelsey McKinnon Por Kelsey McKinnon Photos: Ryan Pfluger