生きていると、たまに現れる隠し立てしない人。会って間もないのに、日常の出来事からプライベートな話まで、包み隠さず話してくれる。ルーシー・リューは、決してそういうタイプじゃない。プライベートがゴシップのネタになるハリウッド女優として何十年も生きてくれば、口が堅くなるのは当然。でも、彼女の用心深さには、中国系アメリカ人の家庭で育ったことも関係しているそう。今回はこの内容をアメリカ版ウィメンズヘルスよりご紹介。

「私は文化的な盾の内側で育てられた」とマンハッタンのアパートからZOOMを通して語るルーシー。「ベールで隠されているだけじゃない。盾で守られている環境」。これは価値観の話でもあり、彼女の体の話でもある。成人してアーティストになるまでは(女優業・監督業に加えて絵も描く)、自分の体を意識せず、そこまで好いていなかった。「自分の体を見たこともなかったわ。人体のことなんて何も知らなかった」

でも、5歳の息子ロックウェルくんには、自分とは違う体との付き合い方をしてほしいと思っている。だから2人は、恥ずかしがらずに人体の構造を話し合う(体の部位に変な呼び名を付けたりしないで)。

「体は解放させないと。居心地の悪さが吹き飛ぶまで、裸で走り回って、自由を感じてほしいわね」とルーシー。「もう裸で走り回りたくないと彼が決めたら、それでいい」

息子のためにできるだけ健康でいたいと願う52歳のルーシーにとっては、自分の体に気を配り、自分の中核を成す(心と体は想像以上につながっているという)信条に従うことが特に重要。その一部が「なめらか」な状態を保つための食生活。1年ほどヴィーガンでいたルーシーは、昨年の12月、ベジタリアンに転向した(かかりつけの鍼療法士から卵を食生活に戻すよう勧められたため)。「息子にはチーズと卵の料理をたくさん作る。彼は食べ物をシェアするのが好きだから、私も一緒に食べているわ」

プラントベースの食生活にしてからは、活力が増し、むくみが減ったと感じている。最近は自炊も増えた。お気に入りは、香り高いキヌア粥や、デーツ、ロータスルート、ヤマブシタケ(ライオンズメーン・マッシュルーム)で作ったスープ。

preview for Lucy Liu On Accepting Her Freckles And Learning To Advocate For Her Health | Body Scan

ルーシーは、西洋の療法に加え、鍼治療を始めとする東洋の療法も頼りにしており、定期的に筋反応テスト(栄養不足を見つけるための代替療法の筋力測定)を受けている。毎日の超越瞑想は、強い心と意志をキープするための大事な習慣。ソウルサイクルの大ファンというルーシーは、自宅のバイクで20分のレッスンを受け、10分間の腕のワークアウトもしているそう。「これでエンジンがかかりやすくなるのよね。体と心の両方が目覚めるから」

ルーシー・リュー

ルーシーの体内のリズムに対する鋭い感覚は、あの幼少期があってこそ。いまは立派な大人として、体の声を聞くだけでなく、仕事を選ぶときも就寝時間を決めるときも、自分の心に耳を傾ける(どんなに早くても寝たければ寝る)。これは全て、自分に忠実であり続けるため。

女優として駆け出しの頃、ルーシーはバスローブでゴミ出しをする姿をパパラッチに撮られた。セレブにとっては日常の一部かもしれないけれど、ルーシーにとっては「プライバシーの侵害」だった。自分の主体性を取り戻すため、ルーシーは公の場における振る舞い方を一段と意識するようになった。今回ウィメンズヘルスのカバーを飾ったのも、「ハタチじゃなくても水着は着れる」ことを示すため。「体には欠点があるし、これまでの経験がある。それを全部受け入れた上で、自分の体に自信を持つべき」

この教訓を得るには、もちろん苦労が伴った。いま振り返れば、二度と繰り返したくない仕事上の決断をしたこともある。「写真撮影で四つんばいになることは、もうないと思う」。数少ないアジア系アメリカ人ハリウッド女優だからか、ルーシーには“エキゾチックな物”として見なされた経験がある。世界中から向けられるそういう視線を当時は無邪気に受け入れていた。「“ドラゴンレディ”とか“ゲイシャ”とか、いろんなレッテルが貼られるたびに、その意味を調べたわ。『ドラゴンレディって何? 全然意味が分からない!』と思った」。ニューヨーク州クイーンズ区という地球上で最も多文化な場所で育ったことにも関係がありそうな話。「道端でドラゴンレディなんて呼ばれるなんて考えられない。当時は世間知らずだったのよ」

アジア系アメリカ人に対する差別と多数の暴力沙汰(コロナウイルス感染症の発祥地が火に油を注いでいる)に関しては、「極悪非道でゾッとする」と話すルーシー。「今回の件で言葉の重要性が証明された。暴力沙汰が起きるとハッキリ分かる。思考と言葉によって種がまかれて、それが育つと人々は不満や怒りをぶちまける。人種差別的な言葉を使う人も、自分の言葉で人を守ろうとしない人も同罪。政治的な立場や肌の色に関わらずね」

一連の事件のせいで、ニューヨークシティーでの生活もままならない。「目的もなく息子を連れだす気にはなれないわ。ニューヨークシティーに住んだら、とりあえず外に出て街を探索したいもの。私はここで生まれ育ったし、国際的な場所のほうが安心だからこの街に住んでいる。でも、あの(アジア系アメリカ人に対する)攻撃があってから、私だけでなく多くの人が精神的にもろくなっている」

ルーシーは、自分の身の回りで起きていること、自分に対する人の見方をいままで以上に理解している。でも、他人を喜ばせるために生きる気は一切ない。「人は、あなたを見たいように見る」。この精神はキャリア選択にも生きている。ルーシーが選ぶのは、既存のオーディエンスが納得する仕事ではなく、自分がつながりを感じる仕事。「アクションムービーだけをしていたら、自分が誰だか分からなくなる日が来ると思う」

以前は休まず仕事をしていた。撮影現場や(撮影用の)トレーラーで、いつも彼女の姿を見かけた。街中でトレーラーを見かけると、ロックウェルくんが「ママのトレーラー!」と足を止めることもあった。

「あの子は私がトレーラーに住んでいると思っていたのよ」とルーシー。「いつも中にいたからね」

ルーシー・リュー

私たちと同様、パンデミックでルーシーの生活も劇的に変わった。去年はずっとアパートで、ロックウェルくんと一緒に過ごした。食べるのも、読むのも、描くのも一緒。2人でウクレレも習い始めた。息子が朝6時に起きるより早く家を出ていた頃とは全然違う。「ここが自分の家だということ、そして私が家にいることを彼に感じさせてあげられるのは、うれしいことね」

今日も進化を続ける中でルーシーは、初めて一市民としての意見を述べることにした。2004年からユニセフ大使を務めていることもあり、これまでは政治とは無関係な立場を保持していたけれど、一連の事件を受けて、SNSやテレビを通じて自分の考えを公にする決断をした。「コンフォートゾーンを抜け出さないと、目的が達成できないときもある」とルーシー。「私がコンフォートゾーンを抜け出すのは、周りの人に不安を感じてほしくないから。これでOKと思っている人たちに、これがOKじゃないことを知ってほしい」

もちろん、自分の気持ちを知ってもらえれば満足というわけじゃない。ルーシーは人々の“行動”を促したいと思っている。「自分の声は有意義なことに使いたい。私の声で、人々を選挙に駆り立てられるなら……」。ルーシーいわくアジア系アメリカ人は、白人のアメリカ人ほど投票率が高くない。「私たち(アジア系アメリカ人)は自分の声に意味がないと思っている。でも、彼ら(白人のアメリカ人)はあると思っている」

ルーシーにとって、To-Doリストの項目にチェックを入れることは重要じゃない。重要なのは、そのときの自分に何が適切かを理解すること。「何をするかは気分次第。『そろそろ結婚しなさいよ』という世間の期待に応える必要は一切ない。絶対にね! 結婚に反対しているわけじゃない。そのときが来ればすればいい。でも、ただ結婚するためだけに結婚するつもりはない。結婚は死ぬまでにやりたいことの1つじゃない。私には、死ぬまでにやりたいことのリストもない」

ルーシー・リュー

仮にルーシーが結婚しても、その内情は明かされないはず。だって彼女は、限られた少数の人だけを招き入れ、自分にとって大事なことは自分で守るということを学んできた人だから。ルーシーはこれからも、自立した女性として生きる。

※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Helin Jung Translation: Ai Igamoto