「わた雲・入道雲」〜夏の空に湧きやすい|雲から知る山の天気(4)/登山力レベルアップ講座

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『登山力レベルアップ講座』は、豪華講師陣から知識や技術を教わって、登山に役立つさまざまな力を「レベルアップ」できる4講座です。山の天気の変化を知る手掛かりとなるのが「雲」。『雲から知る山の天気』では、その種類と、天気との関係を山岳気象の専門家が解説します。第4回は、夏の空に湧きやすい「わた雲・入道雲」です。

文・写真=窪田 純、猪熊隆之
イラスト=平のゆきこ

八ヶ岳方面に見えるわた雲(手前)と入道雲(奥)


夏の空に湧きやすい「わた雲」と「入道雲」。大気の安定した空に浮かぶわた雲は夏らしさを感じるかわいらしい雲だが、入道雲は雷雲へと変化することもあり要注意だ。

 

わた雲・入道雲の特徴

夏空に浮かぶ代表的な雲

白い綿が空に浮かんでいるように見えるわた雲。別名を「積雲」といい、雲が鉛直方向に成長していく対流雲の一つで、雲の底は地表面に近く、雲頂は2kmほどだ。地面付近の暖まった空気が上昇することで雲が発生する。大気が安定していると雲の成長は抑えられ、わた雲止まりだが、不安定だと上にモクモクとカリフラワー状に成長し(=「雲がやる気を出す」と表現)、入道雲(別名、雄大積雲)に姿を変える。太陽光の当たる雲の上部は白く輝いているが、光が届かない雲底は雲が黒っぽく見える。

 

わた雲・入道雲の種類

①扁平積雲(わた雲)

大気が安定しているときにできる雲。雲がやる気を出して上方に成長できないため、扁平な形になる。この雲が見られるときは、その後、入道雲や雷雲に成長する可能性は低い。


②並積雲(わた雲)

雲の上部がモクモクと盛り上がった姿が特徴的な雲。扁平積雲よりは、雲がやる気を出した状態で、今後さらにやる気を出していくかどうか気をつけたい。


③雄大積雲(入道雲)

わた雲が発達した状態。この雲の下ではシャワーのようなしゅうう性(にわか雨)の雨や雪が降ることがある。さらに発達すると雷雲となり、登山中の気象リスクが高まる。

 

入道雲の変化を知る方法

1.登山前に天気図を見る

[Point1]上空の気温差に注目
入道雲の段階では落雷や沢の増水をもたらすほどの豪雨になることはないが、入道雲がさらに発達すると雷雲になるため、登山前に天気図を使って発達の可能性について調べておくとよい。雷雲になるかどうかは、ヤマテンが提供している「山の天気予報」のサイトで見られる専門天気図を使い、500hPa(高度約5500m)と850hPa(高度約1500m)の気温差に注目したい。このとき、目的の山の地点で、上下の気温差が27℃以上になると、周辺の山域で入道雲がやる気を出して雷雲になる可能性が特に高い。

左は500hPa(高度約5500m)、右は850hPa(高度約1500m)の気温を表わした図だ。三角で示した山で気温を見てみると500hPaで-21℃ほど、850hPaは9℃ぐらいになる。上下の気温差が30℃ほどであるため、この山域では入道雲が雷雲にまで発達しやすいと言える。


2.登山中に、雲の湧く時間、湧き方を見る

[Point1]朝から雲がやる気を出し始めているかどうかチェック
左の写真のように、朝から入道雲へと成長している場合は、その後の空模様の変化に要注意。これは上空に寒気が入っている証拠で、気温が上がっていく日中は、さらに雲がやる気を出して雷雲にまで発達するおそれもある。

[Point2]わた雲が上に伸びているかどうか
登山中は特にわた雲の変化に気を配りたい。雲のてっぺんが扁平積雲のように平べったいうちはいいが、モクモクし始めて並積雲となり、やる気を出して入道雲に変わっていくようなら、雨雲レーダー等を活用し、その後の進退を慎重に判断しよう。

豆雲知識

夏山ではなぜ日中に雲が湧くのか?

夏になると朝は広く晴れているのに、日中になると山の山頂付近に雲が湧き立っている様子を見たことはないだろうか。これは、夏の強い日射によって地面が暖められることで、その上の空気を暖め、軽くなった空気が山の斜面に沿って上昇し、雲を発生させるためだ(左図)。このように山麓から山頂付近に向かって吹く風を谷風と呼び、夏の登山はこの谷風によって発生する雲と、追いかけっこになることも。早出早着を心がけ、雲に覆われる前に山頂からの雄大な景色を楽しむのがよい。また、朝晩は谷風とは逆に山頂付近から山麓に向かって山風が吹くため雲は消えていく。山頂付近や稜線上の山小屋に宿泊して、夕焼けや朝焼け、星空を楽しむのもおすすめだ。

山と溪谷2022年7月号より転載)

 

 

プロフィール

窪田 純さん(山岳気象予報士)

くぼた・じゅん/1981年、山梨県北杜市生まれ。気象予報士。空や雲を見るのが好きで気象予報士をめざす。某民間気象会社勤務を経て、ヤマテンへ。学生時代は山岳部で活動し、今は家族や友人と手軽な山を楽しむ。

登山力レベルアップ講座

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