完了しました
3度目の緊急事態宣言の発令を受けて、多くの演劇公演が中止になりました。その一つ、「サンソン―ルイ16世の首を
「サンソン」は、18世紀、フランス革命の時代に実在した死刑執行人シャルルアンリ・サンソンの数奇な半生を描く作品です。4月23日に東京・池袋の東京建物ブリリアホールで開幕しましたが、28日からの15公演が中止になりました。ただし、その後も3都市での公演は予定されていたため、出演者たちは休演中の劇場に集まり、舞台稽古と動画の収録を行いました。
心は動かすもの 劇場でお会いしましょう
動画では、目を閉じて立ち続ける稲垣さんを中心に、出演者が代わる代わる現れて思いを語ります。「私たちは、この一人の人物(サンソン)を通して、この時代を見つめ直していました」(橋本淳さん)「それは、今のこの混乱の時代と通じるものがあると思ったからです」(牧島輝さん)。
そして、誰もいない客席、出演者一人一人の顔などが映し出され、語りが流れます。
「今、私たちが感じているのは、人が集まり、創作をする喜びです」
「今、私たちが感じているのは、皆さんとお会いして作品をともにできる
そして、名場面の数々が映し出され、榎木孝明さんが「演劇は皆さんと私たちが劇場という場で出会えて、初めて息づきます」、中村橋之助さんが「心は抑えるものではなく、動かすものです。みなさんが心を動かせる時に備えて、我々は静かに準備を続けます」と語り、最後に稲垣さんが目を開き、強い言葉で締めくくります。
「劇場が再開される時まで止まらず歩み続けます。また、必ず劇場でお会いしましょう」
再び舞台に 欠落感と意気込みが
台本を書いたのは、この舞台を演出する白井晃さん。わずか4分20秒の短編ですが、中身は濃密です。まず、出演者の欠落感がわかります。突然の中断で、本来観客と分かち合うはずだった「愛おしさ」が失われてしまったのです。そして、演劇の本質について。すなわち演者と観客と劇場があって初めて生命を持つものであると、言い切っています。また「心は動かすもの」というのも、良い言葉です。とにかく、出演者それぞれの言葉や表情から、何としても再び舞台に立ちたいという意気込みが伝わってきます。
ルイ16世への敬愛と皮肉な結末
さて、その「サンソン」、私は幸運にも、ギリギリの4月27日に見ることができました。中島かずきさんの脚本は、主人公サンソンとルイ16世の関わりを軸に進みます。サンソンは処刑人を世襲する家に生まれながらも、熱心なカトリック教徒で慈悲の心を持ち、死刑の是非について自問を続けます。そして、誰でも平等に苦痛を与えずに処刑を行うために断頭台の開発に力を注ぎます。一方、ルイ16世は、国を良くするために改革を求める市民の声に耳を傾け、サンソンの考えにも共感します。そんな開明的な国王を、サンソンは敬愛しますが、王政に対する市民の怒りは抑えきれず、自らの手で処刑せざるを得なくなります。