『お隣の天使様』が5冠制覇! 『このライトノベルがすごい!2024』群雄割拠の文庫部門ベスト10を解説
ライトノベルのランキング本『このライトノベルがすごい!2024』が11月25日に宝島社から発売。佐伯さん『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』(GA文庫)が文庫部門の第1位を初めて獲得した。単行本・ノベルズ部門も永野水貴『恋した人は、妹の代わりに死んでくれと言った。-妹と結婚した片思いの相手がなぜ今さら私のもとに?と思ったら-』(TOブックス)が同じく初の第1位と、例年にないフレッシュな並びを見せた。 フレッシュとはいっても、『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』は、『このラノ!2020』で10位に入って以降、『このラノ!2021』でも10位となり『このラノ!2021』では6位に上昇。昨年の『このラノ!2023』では4位と着実に順位を上げていて、いつトップをとってもおかしくない人気作品だった。 キャラクター女性部門でも、お隣の天使様にあたる椎名真昼は、『このラノ!2022』から3年連続で第1位を獲得し、駄目人間にされる藤宮周はキャラクター男性部門で前回の第3位から第1位へと躍進。イラストを担当しているはねことも、前回の第3位から第1位へとランクアップし、遂にトップに立ったた文庫部門とWEBアンケートの結果も含めて初の5冠制覇という偉業を成し遂げた。 これだけの結果を得られたのは、やはり作品自体が持っている面白さが最大の理由だろう。学校で天使様として誰からも憧れられている少女が、同じマンションの隣の部屋に住んでいて、そして食事や身の回りのことを世話してくれるようになる。そんな夢のようなシチュエーションで読者を引きつけた。2023年1月から3月にかけて放送されたTVアニメで、石見舞彩香が演じた真昼がとてつもなく愛らしかったこともあって、原作への支持がさらに膨らんだ。 もしもランキング常連で、『このラノ!2023』で初の第1位となった衣笠彰梧『ようこそ実力至上主義の教室へ』(MF文庫J)や、『このラノ!2021』『このラノ!2022』で連続して第1を獲得した裕夢『千歳くんはラムネ瓶のなか』(ガガガ文庫)が、昨年限りで殿堂入りになっていなかったとしても、三つ巴の中で『お隣の天使様』が第1位になっていた可能性は高そうだ。 フレッシュという言葉は、文庫部門のベスト10に並んだ作品全体に、より強く当てはまりそう。何しろ『お隣の天使様』と第3位の燦々SUN『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』(角川スニーカー文庫)、第10位の二語十『探偵はもう、死んでいる。』(MF文庫J)以外は、新シリーズとして登場して、今回初めて投票対象になった新作ばかりなのだ。 ジャンルも多彩で、第2位の鵜飼有志『死亡遊戯で飯を食う。』(MF文庫J)のようにサスペンスともアクションとも言えそうな作品があれば、第6位の林星悟『ステラ・ステップ』(MF文庫J)のようなSF&アイドルもの、第7位の水鏡月聖『僕らは『読み』を間違える』(角川スニーカー文庫)のような学園ミステリもあって、異世界転生・転移やラブコメが今のライトノベルの中核といった印象を覆している。 注目は、第4位の四季大雅『バスタブで暮らす』(ガガガ文庫)。第16回小学館ライトノベル大賞で〈大賞〉を獲得した『私はあなたの涙になりたい』(ガガが文庫)がデビュー作にして『このラノ!2023』で第3位となった作者の第2作で、内容も難病の少女との離別で泣かせた前作から一変したものとなっている。 主人公は中高生ではなく大人の女性。就職したもののパワハラで部屋にあるバスタブから出られなくなった主人公が、そこから配信をしながらコミュニケーションを回復し、立ち直ろうとする姿を描いている。就職に苦労したり、社会に出ても苦しい日々が続いたりしている人たちの辛い記憶を刺激するところがあるが、だからこそ必要とされて高い支持を集めたのだろう。 文庫部門は第5位に志馬なにがし『透明な夜に駆ける君と、目に見えない恋をした』(GA文庫)、第8位に持崎湯葉『恋人以上のことを、彼女じゃない君と。』(ガガガ文庫)、第9位に羽田宇佐『週に一度クラスメイトを買う話~ふたりの次巻、言い訳の五千円~』(ファンタジア文庫)と恋愛系もまだまだ元気。この中から次の『お隣の天使様』が生まれてくる可能性もある。 単行本・ノベルズ部門で第1位の『恋した人は、妹の代わりに死んでくれと言った。-妹と結婚した片思いの相手がなぜ今さら私のもとに?と思ったら-』は、『このラノ!2023』での第6位から躍進。過酷な状況で戦い続ける女性が主人公という内容から、女性の得票でトップを集めて、第4位の理不尽な孫の手『無職転生~異世界位ったら本気だす~』(MFブックス)や第6位の伏瀬『転生したらスライムだった件』(GCノベルズ)といったベストセラー作品を上回った。 第2位の十夜『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』(アース・スターノベル)や第3位の十夜『悪役令嬢は溺愛ルートに入りました』(SQEXノベル)、第5位の雨川透子『ループ7回目の悪役令嬢は、元敵国で自由気ままな花嫁生活を満喫する』(オーバーラップのベルスf)など単行本・ノベルズ部門は女性の得票を多く集めた作品が並んだ格好。男性の得票が分散する一方で、女性向けでは人気が集中して得票数で上に上がってきたのかもしれない。 『お隣の天使様』の真昼が第1位のキャラクター女性部門で、2位は『ロシデレ』のアーリャ、第3位は『恋した人は、妹の代わりに死んでくれと言った。』のウィステリア・イレーネで、作品への支持がキャラ人気にも反映された格好。キャラクター男性部門は第1位の藤宮周に続いて第2位に『ロシデレ』の久世政近、第3位に作品は殿堂入りとなったものの、個別ではノミネート可能な『よう実』の綾小路清隆が並んだ。 イラストレーターは第1位のはねことに続き、第2位に『ロシデレ』などを担当しているももこ、第3位に『よう実』を手がけるトモセシュンサクが並んで、こちらも作品人気がそのままイラストレーター人気にも出ていると言えそうだ。 実写映画とTVアニメが作られ、楽天ブックスのライトノベル週間ランキングでも何週間も1位を獲得し続けていた顎木あくみ『わたしの幸せな結婚』(富士見L文庫)が、『このラノ!』のランキングに顔を出していないのは、刊行元の富士見L文庫が集英社オレンジ文庫、『鬼の花嫁』が人気のスターツ出版文庫などと共に、ライト文芸、キャラクター小説といったカテゴリーに入っていて、ノミネートの対象になりづらいからだ。 加えて、殿堂入り作品が除外されること、大森藤ノ『ダンジョンに出会いを求めたら間違っているだろうか』のような長大シリーズ、がすでに有名だからと推されづらいこともあるため、『このラノ!』のランキングが、現実のラノベ市場をそのまま表しているとは言いづらい。ただ、ランキングに並ぶには、一般読者とラノベに詳しい協力者の得票を集める必要がある。例年にない群雄割拠となった『このライトノベルがすごい!2024』に登場した作品から、次の殿堂入り作品を探す楽しみを感じよう。
タニグチリウイチ