平成に一世を風靡した「ギャル」が今の時代に再ブームとなっている。その理由とは?(写真は2004年のもの)
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平成初期に一世を風靡(ふうび)した「ギャル」が、令和の時代に再ブームになっています。ギャルといえば、厚底ブーツ、ルーズソックス、こんがりした日焼けなどを思い浮かべる人も多いでしょう。
しかし令和の10代〜20代は必ずしも「ギャルっぽい見た目」になることを目指しているわけではありません。今、彼女たちが本当に憧れるのは「ギャルのマインド性」なのです。
Z世代を研究するプランニングチーム「Zs」に所属する大学生たちの生の声から、Z世代になぜ「マインドギャル」が流行しているのかを探ります。
Z世代に流行する「コスプレギャル」
ルーズソックスが女子高生の間で再ブームとなっている。
提供:Zs
「1990年代に流行ったルーズソックスがZ世代に流行っている」といったニュースが2021年からよく流れています。
私も先日ディスカウントストアに買い物に行った際、制服の定番である紺ソックスと並んでルーズソックスがずらっと並べられているのを発見。こんなに簡単に入手できるようになっているんだな、と驚きました。
TikTokで高校生らの投稿を見てみると、学校で音楽に合わせて踊っている子の中にルーズソックスを履いている子も見かけます。
「#平成ギャル」のハッシュタグをTikTok内で検索すると、つけまつ毛をバサバサにつけ、前髪をシュシュやくちばしクリップでアップヘアにし、カーディガンを腰巻にした(もちろんルーズソックスも履いている)ギャルたちの投稿が確認できます。
TikTokで「#平成ギャル」で検索した結果。コスプレでギャルを楽しんでいる動画が多く投稿されている。
画像:TikTokより
一方、そんな彼女たちの普段のTikTokの投稿を見ると、彼女たちは普段からギャルとして過ごしているわけではないようです。髪色もよくよく見ると金髪や茶髪ではなく黒髪ばかりなのが分かります。
彼女たちはコスプレのようないちコンテンツとして、その日だけギャルを楽しんでいたのです。
「最近の女子高生は平成ギャルの格好を真似して、ただただ街中を歩くという遊びが流行ってるらしい。TikTokを見ているとそういう投稿を目にするようになった」(Lさん・23歳女性)
「マインドギャル」になりたいZ世代
なぜ彼女たちはギャルっぽい見た目を一日限定で楽しんでいるのでしょうか?
実は、彼女たちが本当にやりたいことは、ギャルっぽい「見た目」を楽しむことではなく、内面を「ギャル化」すること。ギャル特有のノリの良さや明るいテンションでいることや、周りに振り回されずにハッキリと自分の意見を言うなどの「ギャル流のマインド」に憧れている子が増えているというのです。
内面がギャルらしい子を指して、Z世代は「マインドギャル」と呼んでいました。
マインドギャルの定義。
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「みんなギャルになりたいって言うけどギャルの見た目になりたいわけではない。ダサいものはダサいって言えたり、楽しい場面ではテンションを上げられるマインドギャルに憧れている」(Lさん・23歳女性)
ギャルは女子だけじゃない。筆頭格はYouTuber・kemio
マインドギャルの象徴として名前のあげられる、YouTuber・kemioさん。
動画:kemio
このマインドギャルと呼ばれる存在は女の子に限らず、男の子にもいるとZ世代は言います。
「最近Twitterでマインドギャルになりたいという投稿を見た。マインドギャルは女の子だけに限らず、男の子にもいるのが特徴。男の子でもギャルのような考え方に憧れていたりする」(Sさん・21歳女性)
「自分の男友達の3人くらいはマインドギャルがいる。その子たちとはインスタのDMでよく『私たち、生きてて偉い』とか『可愛い』とか励まし合ってる」(Mさん・22歳女性)
そしてZ世代がマインドギャルの象徴として挙げるのがYouTuberとして有名なkemioさんです。
彼は視聴者たちのことを「ギャルズたち」と呼び、ギャル語講座の動画も視聴者たちの間では有名です。kemioさんが作った「あげみざわ」などの言葉も中高生のトレンドワードとして流行した実績があります。
「今っぽいギャルのイメージとしてはkemioかなと思う。この人の登場によっていわゆる見た目がギャルじゃなくても心がギャルという存在ができた」(Lさん・23歳女性)
「今時のギャルと言ったらkemio。動画を見て『私もこれくらい自由で生きていいんだ』と気付いて、マインドギャルが誕生するんだと思う」(Mさん・22歳女性)
「マインドギャル」になりたいと思うZ世代が増えているのは、kemioさんのように周囲には常に明るく振る舞い、自分を貫いて生きる様子に憧れる子が多いからなのでしょう。
コロナ、不景気……心にギャルを持つ切実な理由
Z世代の学生たちは、コロナ禍で生きていることに対して閉塞感を感じている。
画像:shutterstock
なぜ今のZ世代は、ギャルのようなマインドを持ちたいと思うのか。インタビューを進めていくと、今Z世代が生きてきた社会背景と密接につながっていることが分かりました。
一つ目の要因は、青春時代とコロナ禍が重なり、世の中が暗い状況の中で生きることへの閉塞感を感じているということです。
1990年代後半から2000年代にかけて生まれたZ世代は、生まれてからずっと不景気と言われ続けてきた世代です。そうした経済状況や東日本大震災といった避けられない自然災害、そして今はコロナ禍により学生生活の多くの時間をリモートで過ごすことを余儀なくされています。
そうした不安定な生活を送る中で、Z世代は未来に対する希望を持ちづらいという側面があります。
「世の中が暗すぎてギャルのような明るいマインドを持っていないと生きていけない。震災やコロナなど生まれてからいいニュースが降ってきたことがないような気がする。修学旅行に行けなかったりなど今のJK(女子高生)ほど閉塞感を感じている世代はいないのではないか」(Lさん・23歳女性)
彼らが一日限定でTikTok世界の中で平成ギャルを楽しんでいるように、せめて友人と一緒にいる間やSNSの中だけは、現実離れした楽しい瞬間を作り出さないといけないと思っているのではないでしょうか。
SNSで自分よりも優れている「上位互換」の存在が目に入り、引け目を感じてしまう。
画像:今村拓馬
心にマインドギャルを持たざるを得ない二つ目の要因は、周りと比べすぎずに自分の存在を確かめたいからだと考えられます。Z世代の学生らと話をしていると、自分よりも優れている「上位互換」の存在を、SNSですぐ見つけてしまう悩みがあると言います。
例えば、映画鑑賞が好きで友人の間では映画マニアとして認識されていたとしても、フォロワーが何万人もいる映画アカウントを運用している同世代には敵わないと思ってしまう。
また、美容やコスメが好きでコスメオタクとして認識されていたとしても、自分よりもっとお金をかけて研究している身近な人を見つけてしまうと自信をなくしてしまうというのです。
ここで重要なのは、Z世代は、どんなに自分が好きな領域やテーマであっても人と比べ、引け目を感じてしまうという生きづらさを抱えている点です。好きな領域であれば周りを気にせずに貫き通せばいいはず。ですが、SNSを通じて常に他者と比較できる環境にいるZ世代が一切周りを気にせずに熱中するのは困難で、好きなものにハマりにくくなっているのです。
「SNSがあるとどうしても他人の存在が気になってしまう。自分よりも優れている人やセンスのある人など比較対象が常にあるので自分を評価してしまうのが嫌だと思った。メンタルヘルス的に良くないと思う」(Sさん・21歳女性)
「自分が好きな領域を極めていきたいと思うけど自分よりも極めている人がすぐ見つかってしまう。自分の『上位互換』の存在がいることを感じてしまう」(Lさん・23歳女性)
そうはいっても、このまま自分が好きな領域ややってみたいことをできずに終わってしまうのも回避したい。そこで彼らの憧れの的となっているのが、我が道を貫き通せるマインドを持ったギャルだというのです。
「うちら偉いよね、アゲ」マインドギャルのメリット3つ
マインドギャルでいることのメリットとは?
画像:今村拓馬
実際に周囲からマインドギャルだと認識されているZ世代の男女にインタビューすると、マインドギャルでいることの彼らなりのメリットが見えてきました。
1.マインドギャルになると、自己暗示で自分を救うことができる
マインドギャルの特徴として、嫌なことがあってもくよくよせずに自分を奮い立たせるのが得意という点があります。このギャルの明るさを活用し、自分を悩みや辛さから救うためにマインドギャルでいるというZ世代がいました。
「インスタのサブアカウントで自分は病んでいることや本心を吐き出している。でも単に悩んでいることを書くのではなく、『就活大変だけど就活に向き合ってるだけで私偉いしアゲ』『生きてるだけで可愛い』などと書く。本心から自分を可愛いと思っている訳ではなく、自分を励まして、自己暗示をかける意味で使っている」(Mさん・22歳女性)
悩みを自分の中に貯めこむのではなく、そのまま「つらい」と書くのでもない。マインドギャルになりきって明るく変換して吐き出すことで、心の平穏を保っているのでしょう。
2.マインドギャルでいると、周りに合わせなくても大丈夫と思える
「日本人って『普通は』とか『みんなが』の空気に縛られている。それを、もっと自分本位に考えていいんだと気付かせてくれたのはkemioとかのYouTuberの力が大きい。どんな悩みも明るく解決してくれるパワーのある人を求めていたんだと思う。YouTubeを見て育つ世代だから、マインドもYouTuberから学んでいる」(Mさん・22歳女性)
昔から協調性を重視する文化のあった日本において、SNSの普及は「みんな」を見えやすくしました。離れた人とのコミュニケーションが取りやすくなった一方で、「みんなと同じようにしなければ」と見えない空気に縛られやすくなったのかもしれません。
自分の意思を持ち、言いたいことははっきりと口に出すkemioさんのようなYouTuberの存在が人気なのは、息苦しさを感じていたZ世代の救いとなっているからなのではないでしょうか。
3.マインドギャルなら、性別関係なく“We”でつながり仲間になれる
先述の通り、マインドギャル代表としてkemioさんの名前が挙がっており、マインドギャルは男性・女性といった性別の概念を超えています。
自分はマインドギャルだというZ世代の男性は、メンズネイル(ジェルネイルやマニキュアなど女性と同じように爪を着飾ることを楽しむ男性向けネイル)を普段から楽しんでいます。自分の手元を可愛くすることでテンションを上げようとしているとのことでしたが、さらに彼にはメンズネイルをしている別の理由がありました。
「僕は女の子になれない。けれど生理やキャリアのことで女の子の方が大変だから、少しでも女性のことを分かるようになりたいと思っている」(Hさん・23歳男性)
自称マインドギャルを名乗る男性Z世代は 女性の気持ちが分かりたくてネイルをしているそうだ。
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ネイルを一つのきっかけに女性の気持ちに寄り添い、つらい気持ちも共有したいと考えるのでしょう。
マインドギャルたちは「みんな頑張ってるよね」「うちら偉いよね」と、主語にWeを使います。性別ではなく、内面を重視して人とつながるようになった結果、男性からもギャルが誕生。マインドを共有できれば仲間になれるし、悩みを共有することもできるのです。
マインドギャルの存在を紐解いていくと、Z世代が感じている閉塞感や、生きづらさが根底にあることが伺えました。
不景気もコロナもSNSに関する悩みも、自分一人の力で解決策を見つけられる問題ではありません。この先を強く生きていくには、一人一人がギャル流マインドを手に入れることが必要になるのかもしれません。
牧島夢加:株式会社博報堂ミライの事業室(ビジネスデザイナー)/ 現役大学生らと共に、Z世代を中心とした若者の思考回路や消費行動を分析し、その知見をもとにクライアントの次世代攻略プロジェクトに活用。ゼロイチから立ち上げるZ世代向けのブランド開発や商品・サービス開発などに従事している。