教員のよこがお

助教 西原 志保 NISHIHARA Shiho

所属

父の靴

 東北大学理学部出身だった父の同窓会に付き添って、2008年秋に私は初めて仙台を訪れた。膵癌を患ったために体力も筋力も落ちていたのに、元気な頃と同じようにどこへでも自分の足で歩いていこうとする父の後を、ハラハラしながらついていったのを覚えている。
 当時私は名古屋で博士論文を書いていた。博論は『源氏物語』の登場人物である女三の宮を扱ったもの。出家後に来世での対面を誓い合う女三の宮と父朱雀院や、父の死後、言葉によって濃密な父と娘の世界を作り上げた森茉莉など。自分は「母親っ子」で、ほとんど本を読まない父とは共通の話題もなかったのに、なぜか父と娘の物語にばかり惹かれていた。私は2009年3月に学位を取得し、父はその翌月に亡くなった。
 その父の靴が、今私の下宿にある。暫く実家に帰省していた私が東京に出るとき、一人暮らしだと思われると危ないからと言ってカモフラージュ用に母が持たせてくれたもので、その時は東北大学に着任することになるとは思ってもみなかった。父の靴は、もういちど仙台の街を歩いてみたかったのかもしれない。

  • 研究・略歴
  • 著書・論文等
  • 主要担当科目
    人文社会序論「現代日本学入門」(共担)
    略歴
    1980年香川県生まれ。2003年3月同志社大学文学部文化学科国文学専攻卒業。2005年3月名古屋大学大学院文学研究科博士課程前期課程修了。2009年3月、名古屋大学大学院博士課程後期課程修了。博士(文学)。2010年5月~2011年3月、名古屋大学高等教育研究センター研究員。2017年7月~2020年3月、国立国語研究所広報室プロジェクト非常勤研究員。共愛学園前橋国際大学、大東文化大学等非常勤講師を経て、2022年10月から現職。
    研究キーワード
    アセクシュアル ポスト・ヒューマン ジェンダー 動物論
    所属学会等
    日本文学協会 物語研究会 中古文学会 昭和文学会 表象文化論学会 日本人形玩具学会 全国大学国語国文学会
    研究者紹介DB
    https://www.r-info.tohoku.ac.jp/ja/055c97e3a4c108c162e255e096a0b5fb.html
  • 主要著書
    『『源氏物語』女三の宮の〈内面〉』新典社新書、 2017年
    主要論文
    「天上の魂と地上の身体:矢川澄子『兎とよばれた女』における『竹取物語』解釈」『古代文学研究 第二次』 (30) 170-183 2021年10月
    「情報化される精神と機械化される身体:京極夏彦『魍魎の匣』、『ルー・ガルー』の比較にみる変容」『日本文学』 70(10) 13-21 2021年10月
    「猫のまなざしを追いかける:『源氏物語』と動物論」『物語研究』 (21) 16-30 2021年3月
    「森見登美彦『四畳半神話大系』における「もちぐま」の越境 」『人形玩具研究ーかたち・あそびー』 (31) 53-63 2021年3月